月夜に見つけた王子様

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 そこから僕と彼女が仲良くなるのに、時間はかからなかった。  彼女の想像力は、ぼくを置いてけぼりにすることもあるけど、同時に僕を色んな世界へと連れていってくれる。 『昨日ね、歩いてたら帽子が風でふわーって飛んでいったの。そこからどこに行ったのか分からないけど、きっと帽子も旅をしたかったんだと思うの。だから私は帰りを待ってるのよ』  そんな風に、朗らかに笑って風で飛んでいった帽子への思いを綴ったり。 『学校の図書室って大好き。だって色んな本のお話を聞けるもの。私の夢は、いつか本棚から飛び出てきた沢山の本たちと本の世界でお話することかな』  僕は本は読むものだと思っていた。彼女にはどうやら本の声が聞こえるらしい。 『秋の落ち葉って素敵ね。沢山重なった葉っぱに隠れた落とし穴って、秋の世界に連れていってくれそうな気がしない?』  落とし穴さえも彼女にとっては別世界への入口になる。  そんな風に放課後の二人っきりの教室で、彼女の想像した世界の話を聞くのが、僕の楽しみになっていた。
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