方向音痴

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「くっ、くるなぁっ! あっちへいけ!!」  俺が這うように後ずさると、加奈子さんはゆらりと左右に揺れながら距離を詰めてくる。 「ねぇ、今度休憩所へ行こうって約束したよね? でもその前に私、いかなきゃいけないところがあるらしいんだ。だからさ、卓也くん。」 「やああああっっ! てめぇ、何しやがった? 何で動けねぇんだよっ!」  俺は必死に抵抗を試みるが、体はピクリとも動かない。  目の前にいる血だるまの加奈子さんはまるで赤ずきん。俺の脳内では童話のナレーションが流れ出す。 『月夜の晩、赤ずきんちゃんに遭遇した狼は、食べられてしまいましたとさ』 「これじゃあ、逆だろうがよぉ?」  呟き終わらぬうちに、俺の目の前は赤く染まった。
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