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とりあえず寝てみた 2
吉川さんは松本さんに腕枕されながら、満足して言う。
「気持ち良かった。久しぶり。松本さん、なかなか良かったよ」
褒められて、松本さんは照れる。
「ありがとうございます」
吉川さんがクスッと笑う。
「私もありがたかったよ。なんせ2年もセックスされないで、熊さんに放置されてきたから、自分に自信がなくなっていてさぁ」
「自信がないって……」
「もう、男に相手にされない体になったのかなぁって」
松本さんがもじもじして言う。
「いや、吉川さんは、十分綺麗ですよ」
松本さんは、本気でそう言った。
でも吉川さんは、お世辞だと受け取った。
「ありがとう。少し自分に自身が持てた気がする。それにしても、2年振りにしちゃった」
松本さんがもじもじして言う。
「僕は5年振りです」
「5年もしてないの? 男なのに? 風俗行かないの?」
松本さんは心外だった。
「行きませんよ」
「へぇー」
吉川さんは、疑いの眼差しをする。
「何ですか?その目は」
「男って、みんな行くのかと思っていた。私と付き合ってからも、今もずっと、熊さんは行っているみたいだし」
「そうなんですか?」
「うん、領収書みたし。今も時々、リビングや熊さんの部屋に、領収書や女の名刺が落ちているよ」
松本さんは、熊さんが随分、ずさんな行動をとるなと思った。
「本当の話ですか?」
「そうだよ。でも。そのうちそれだけじゃなくなって、ここ1年はホテルの領収書とかも見ちゃってさぁ」
「デルヘルですか?」
「違うと思う。出会い系とか、婚活アプリの女じゃない? それで、女とホテル行くようになってさぁ」
「なんで知っているんですか?」
「携帯の画面に通知でるじゃん? アレで知ったの。それで、女がいるんだなぁてさ」
「キツイですね。それ……」
「初めて見た時は、キツイなって思ったけど。男女関係もなくなっていたからさあぁ。男なんて、みんなそんなもんかなって」
「ふーん。僕には、その感覚が理解できないです。僕はそんな事しません」
「そうなんだぁ。男も色々いるんだね」
松本さんは何時になく、キッパリと言った。
「そうですよ。絶対しないです」
「それで熊さんの今カノは、浮気相手の3人目なんだ。3人目の浮気相手の華ちゃんに、とうとう私は熊さんを獲られたわけ」
「あ、なんて言っていいかぁ。僕にはぁ……」
吉川さんは、松本さんの腰回りに、手を絡めた。
「大丈夫、言葉はいらない。聞いてくれるだけで良いよ。それとも話さえ聞きたくない?」
「いえ、聞きます」
「それでもさ。私はこの2年間、他の男と付き合ったり、寝たりしなかったの。熊さんが他の女と外で楽しくやっているのは知っていたけど、私は何も熊さんに言わなかったの」
「どうしてですか?」
吉川さんは、少しだけ声を小さくした。
「好きだったからだよ」
松本さんに疑問が生じる。
「好きなら。浮気したら、問い詰めるでしょう? なんでしなかったんですか?」
吉川さんの瞳が揺らぐ。
「だってさ。私って可愛げないし。きつい性格だし。毒舌だし。ガサツだし。セックスもされなし。熊さんは、私を好きじゃないけど、惰性で一緒にいるんだろうって思ったの。だからさ。熊さんの浮気を責めたら、私は捨てられるって思ったんだよ」
松本さんは、途方に暮れた。
慰めの言葉が見つからない。
「なんて言って良いかァ」
吉川さんは、そんな松本さんを見て、クスッと笑った。
「慰めは良いよ。私が女として魅力がないのは、私はよく知っているから。聞いてくれてありがとう」
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