俺たちの家の決まり

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俺たちの家の決まり

 吉川さんの熊さんを愛してたけど、責めなかった話が、丁度終わった時だった。  玄関の鍵が、開く音がした。    吉川さんが言う。  「あれ? なんだろう?」  玄関から声がした。  「ただいま」  熊さんの声だった。  吉川さんが言う。  「あれ? 帰ってきたポ」  「そうですね」  するともう一度熊さんが叫ぶ。  「ただいま。ねぇ、聞こえないの? もう寝たの?まだ19時じゃん? 寝てないよね?」  ドスドスと階段を登る足音がした。  「俺も、あの後、言い過ぎたって思ってさぁ」  ガラガラって、吉川さんの部屋の引き戸が開けられた。  引き戸が開けられて、熊さんが吉川さんの部屋を覗く。  そして言う。  「だから早めに帰って……」  熊さんは、一瞬言葉を失った。  熊さんが、見てしまったからだ。  裸で、吉川さんのベッドに、吉川さんと松本さんが一緒に寝ている姿を、熊さんは見てしまった。  そして、一気に、熊さんのテンションがマックスになった。  「ちょっとぉ! 何やってくれているの? 俺たちの家で男連れ込んで、セックスしたの? そう言うのやめてくれよ!」  吉川さんが平然と聞いた。  「あれ、今日は華ちゃんの家に泊まるんじゃなかったの?」  熊さんは怒っている。  「帰りが遅いって言っただけだろう? 泊まるなんて言ってないから」    吉川さんが、松本さんに確認した。  「そうだった?」  松本さんが、少し考えてから答えた。  「たぶん、熊さんは泊まりだとは、言ってなかったですよ」  熊さんが満足げに言う。  「な? そうだろう? 異性を連れ込んで、セックスするのは、違反行為だぞ!」  吉川さんはそんな話は初耳だった。  「え? そうだったの?」  「俺は、女をこの家に連れ込んでないだろう?」  「確かにね。でも熊さんがそんな事したら、大家の私が追い出すけれどね」  熊さんは、また怒りが沸いて、口調がきつくなった。  「もう、この家で、こんな事はしないでくれよ」  なだめるように吉川さんが言う。  「大丈夫。もうしないから。たまたま今日、偶然、しちゃっただけで。松本君は単なる知り合いで、友だちですらないから」  知り合いと言われて、松本さんは不満だ。  「え、まだ知り合い止まりなんですか?」  「だって、名前や家も知らないし。ラインや電話番号も知らないもの」  その話に、熊さんが驚いて聞いた。  「ちょっと、吉川さん。そんな男を家に上げて、しちゃったの?」  「まぁ、そうかも」  「勘弁してよぉ。それって俺への当てつけって事?」  「当てつけ? それってどう言う意味なの? あてつけ?」  「そうだよ。あてつけだよ」  「言っている意味がわかんないよ。私は単に、セックスがしたかっただけなの。今までは熊さんと、形だけだけど恋人だったから、熊さん以外の男と、寝ようと思わなかったけど。せっかく熊さんと別れて自由になったでしょう。だから。するチャンスがあったからしただけ」  「なにそれ?」    「もうさ、私も29歳なのよ。この年で恋人と別れてさ。すっかり、私の周りにはいい男はいなくなったし。出会いはないし。婚活アプリも上手く行かないし。一生独り身なんじゃないかと、思えてきて……。もしかしたら、この先誰かとセックスする機会があるのかなって思ったら。だったら、タイプな男がいて、その男とセックスが出来るチャンスがある時に、セックスをしといたほうが良いんじゃないかと思ったんだ」  熊さんはカンカンに怒っていた。  「そんな理屈、おかしいだろう? チャンスがあったら誰とでもするのかよ。そんなのすれっからしの女のする事だろう? なんで吉川がするんだ。そんな女じゃないだろう?」  「大丈夫だから。相手はちゃんと選んでるから」  吉川さんは、チラっと松本さんを見た。  松本さんは、顔を見られて、真っ赤になった。  吉川さんが力説した。  「だってさぁ、熊さんと付き合っている間、私は2年間何もなかったんだよ。せっかく別れたんだから、良いじゃん。したって。この先だって何時セックス出来るかも分からないし」  「なんだよ、それだと、まるで俺が悪いみたいじゃないか?」    「別に熊さんは悪くないよ。たださ、そう思ったからさぁ。そう言っただけ。もうさ。私の事は放って置いて。別れたんだからさ。したいようにさせてよ」  「吉川は、今投げやりになっている様にしか見えないぞ」  「どうとでも言って。私は、もうヤケなんだと思う。放って置いてよ。熊さんは華ちゃんのことを、見ていて上げたら良いだけだから」     吉川さんが松本さんを見て聞いた。  「それより松本くん、お腹へってない?」  「減りました」  「じゃ、なんか作るよ。食べて行きなよ」  熊さんが割り込んで言う。  「え? 何作るの? 俺も食べる」  「なんで、熊さんまで食べるのよぉ。熊さんは、華ちゃんと食べて来たんでしょう?」  「別腹だから」    吉川さんは熊さんに文句を言う。  「それこそ意味がわかんないわ」  そして、松本さんに話しかけた。  「私さぁ、シャワー浴びたら、何か作るから。私がシャワー浴び終わったら、松本さんがシャワーを使っていいよ」  松本さんが頷いた。  
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