熊さんと松本さんのさしのみ

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熊さんと松本さんのさしのみ

 熊さんが言う。  「吉川なんか放って置いて、俺たちはライン交換しようぜ」  松本さんが携帯を出した。  「いいですよ」  熊さんと松本さんがラインを交換した。    熊さんが言う。  「吉川はヒステリーでしょうがないよ、すぐ怒るんだ。これも何かの縁だ。これからは友だち付き合いしようぜ」    松本さんがニコッと笑った。  「いいですねぇ。僕は地方出身で、東京に友達が少ないんです」  熊さんが松本さんの肩を叩く。 「そうなんだ。じゃ仲良くしよう」  熊さんが松本さんに聞く。 「それで、どうなの? 吉川とはさ」 「どうって?」  熊さんが松本さんの目をじっと見た。 「これからどうするのかって話。付き合うの?」 「いえ、僕が付き合いと思っても、吉川さんにその気がないですよ」 「え? 松本さんは吉川と付き合う気あるの? 吉川は私生活が雑だし、口が悪いよ」   「時々、インフォメーションカウンターで見かけて、綺麗な人だなって思っていたんです。でも美人過ぎて、僕なんか相手にしてもらえないって、諦めていて……」  美人すぎて、冷たい吉川さんより、愛想が良くて手頃感のある相澤さんに、松本さんは声をかけてしまったのだ。  だから、松本さんは思う。  「なのに、こんな事になって、夢みたいです」    熊さんが言う。 「じゃ、付き合えばいいじゃない?」  松本さんは悲しげだ。 「いや。相手にされてないです。単なる今回限りの男だったんですから。吉川さんが、その場限りの、セックスがしたいだけだって言ってました」  熊さんが馬鹿にしたような顔をした。 「それ、女がいうセリフじゃないな」 「それに吉川さんは、高学歴、高収入男子が良いみたいです。僕じゃ足元にも及びません」 「そんな男何処にいるの?」  松本さんが、教えた。 「婚活アプリにいました」 「え?吉川は婚活アプリ始めたの?」 「ええ、熊さんにフラれてから始めたそうです」 「知らなかった」 「そこで吉川さんはモテモテですよ。凄く良い条件の男がきてます。例えば、吉川さんがフォロバしてる男子の1人は、年収800万以上ですよ。29歳でした」   多くの婚活アプリでは、フォローして、フィローし返す(フォロバ)すると、お互いにダイレクトメッセージが送りあえる。    熊さんが驚く。 「マジ?」 「マジですよ」 「それ、吉川が、男に騙されているんじゃないの? ヤリ目じゃないの?」  ヤリ目とは、婚活アプリで知りあって、セックスしてやり逃げする男のことを言う。   「どうかな……、職業はコンサルでした」  熊さんが訝しがった。 「いやー、コンサルでも、29歳で800万以上にはならないだろう?」 「どうなんですかね?」  熊さんが疑いの目をする。 「そんな好条件の男子とやりとりしていて、何で吉川は、松本さんと寝たの?」 「僕の顔と身体が好みだっただけ見たいです」    熊さんが哀れみの表情をした。 「吉川は、よほど男に飢えていたんだなぁ」 「熊さんは、2年も、吉川さんを、放置したって聞きましたが……」 「そうだけどなぁ」 「どうしてですか?」  熊さんははぐらかす。 「どうしてだろうな」  松本さんはなんとなく、熊さんが吉川さんに、未練があるように思えた。 「熊さんは、まだ吉川さんが好きなんですか?」 「好きだよ。話は合うし。ああ見えて優しいし」 「じゃ、何で自分から別れたんですか?」  熊さんは、またはぐらかす。 「どうしてだろうな? 男と女ってムズいよな?」  熊さんが松本さんに酒を注ぐ。 「まっ、飲んで。飲んで。良かったら焼きおにぎりと卵焼き食べてよ。案外、美味いから」  焼きおにぎりと卵焼きを食べて、松本さんが驚く。 「本当ですね。美味しいです」  熊さんが吉川さんの料理を批評した。 「吉川は、雑な料理作るけど、味が良いんだよ。盛り付けとかマジ雑で、吉川って感じだ」    この日、熊さんと松本さんは、友だちになった。  
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