山岡ちゃん、破水する

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山岡ちゃん、破水する

 吉川さんが、ハンバーグを半分食べた時、携帯がバイブした。  吉川さんが携帯画面を見て、それから電話に出た。  電話に出ると、ただ「うん、うん、うん、うん」を繰り返す。  そしてだんだん難しい顔になっていく。  吉川さんは最後に言った。  「今行くから」  それから立ち上がった。  不穏な空気を醸し出す吉川さんに、松本さんが聞く。  「どうしたの?」  吉川さんの声が緊張している。  「親友の山岡ちゃんが、破水したんだって。それで助けて欲しいって。病院で付き添って欲しいって言うんだ」  松本さんはびっくりして聞いた。  「旦那さんはどうしたの?」  吉川さんが、困り顔で言う。  「生まれて数日したら、顔を出すって言っているんだって」  「産まれて数日したらって……。旦那さんは、何処か遠くに住んでいるの?」  「山岡ちゃんのマンションから、車で5分もかからない場所に住んでいるよ。別居婚なんだよ」  松本さんには理解できない。  「そんなに近くに住んでいるのに、旦那さんは、なんで来ないの?」  「理由は知らないけど。山岡ちゃんに、旦那さんが言ったらしいよ。一人でタクシー乗って、病院に行けって。子供を生むのに、夫なんて必要ないだろうって」  「変わった人みたいだな……」    思い出すように吉川さんが言う。  「結婚した時は、普通だったけどなぁ。私、山岡ちゃんのマンションに行かなきゃ。じゃぁ、これ、私の分を払っておいて」  吉川さんが、2000円をテーブルに置いた。  「僕も一緒に行くよ。車出すよ。僕の家は、吉川さんの家の直ぐ側だから」  そして、吉川さんの家の近所のファミレスから、吉川さんと松本さんは、小走りで松本さんのマンションに移動した。    松本さんのマンションを見て、吉川さんは驚いた。  「え、ここだったの? 私の家と、凄い近かったんだ」  吉川さんの家の、目と鼻の先に、松本さんの借りているアパートがあった。  「何で教えてくれなかったの?」  松本さんが憮然と言う。  「僕の住んでいる場所に、吉川さんは、興味なかったでしょう?」  「確かに、全く興味がなかったよ」  それから二人は松本さんの車に乗り込んだ。  5分ほどで山岡ちゃんのマンションに着いた。  吉川さんが言う。  「じゃ、山岡ちゃんをつれてくるから、ここで待っていて」  松本さんが頷く。  10分もすると、山岡ちゃんを連れて、吉川さんが戻ってきた。  山岡ちゃんが、運転席に座る松本くんに礼を言う。  「ありがとうございます。すごく心細かったんです。感謝します」    松本さんが言う。  「無事子供さんが産まれたて、可愛い赤ちゃんを見せて貰えたら、それで僕は充分です」  山岡ちゃんが、泣きそうな顔になった。
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