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赤ちゃん産まれる
病院につくと、すぐ山岡ちゃんは分娩室に連れて行かれた。
看護師さんが「もう子宮口が8センチ開いている」と教えてくれた。
そして分娩室に入って、1時間もしたら、赤ちゃんの泣き声が聞こえた。
看護師さんが、産まれたばかりの赤ちゃんを連れて出てきた。
吉川さんと松本さんは、思わず、赤ちゃんに近寄る。
吉川さんが叫ぶ。
「可愛い」
看護師さんが、赤ちゃんの傾けて、赤ちゃんの顔を見せてくれた。
松本くんが言う。
「可愛いなぁ。可愛いなぁ。無事生まれて良かったなぁ。本当に良かったなぁ」
吉川さんがマジマジと赤ちゃんの顔を見る。
「まだ顔が赤いね」
看護師さんが教えてくれる。
「赤ちゃんですからね。生まれたては赤いんですよ」
吉川さんが「へー、そうなんだぁ」と感心する。
看護師さんが言う。
「女の子ですよ」
松本くんは、デレデレ顔で言う。
「女の子かぁ。世界で一番かわいい女の子だなぁ」
吉川さんが言う。
「本当だうよねぇ。すっごく可愛い」
看護師さんは笑っていう。
「お父さんは、もうお子さんにデレデレですね。抱っこしますか」
松本くんの顔が、更にデレデレした。
松本くんは、お父さんではないが、否定しない。
松本くんは、お父さんを楽しんでいた。
「抱っこして、良いんですか?」
松本くんが赤ちゃんを抱いた。
松本さんは愛おしげに赤ちゃんを見つめる。
看護師さんがいう。
「写真撮りましょう」
それで松本くんが赤ちゃんを抱いて、隣に吉川さんのいる写真が撮影された。
看護師さんがいう。
「じゃ、私はこれから赤ちゃんのケアに行くので。お母さんの方は、後30分くらい分娩室で待機なので、会ってあげてください。でももう遅いので、5分程度でお願いしますね。面会したら、できるだけ早く帰って頂きたいんです」
看護師さんが赤ちゃんを連れて、去っていく。
松本くんが腕時計を見て言う。
「ああ、もうそろそろ25時かぁ」
分娩室の中に入る。
そこにはまだ看護師さんが1人残って、作業をしていた。
松本くんが看護師さんに軽く会釈した。
しかし、吉川さんは、会釈もせず、まっすぐ山岡ちゃんのもとに行く。
そして上半身を起こして、ぼんやりしている山岡ちゃんをハグした。
「山岡ちゃん! 頑張ったねぇ。大変だったねぇ。赤ちゃん可愛かったよぅ」
山岡ちゃんが”うん、うん”という。
山岡ちゃんが言う。
「心細かったんだ。吉川ちゃんがいてくれて、安心できたよぉ。ありがとう。いてくれてありがとう」
吉川さんが言う。
「いいんだよ。私はいつだっているよ。いるしか出来ないけどさぁ」
遅れて山岡ちゃんの側にたどり着いた松本くんが言う。
「赤ちゃん見ました。可愛かったです。無事産まれて良かった」
すると山岡ちゃんが涙ぐむ。
「ありがとう。廊下から、松本さんの声が聞こえてきて。赤ちゃんが無事産まれて良かったって。世界で一番可愛い女子だって。産まれてすぐの私の赤ちゃんに、言ってくれた。ありがとう」
松本さんが困惑して言う。
「あ、そんなぁ。泣かないでください。僕は本当の事を言っただけで……」
「嬉しかったんです。一人で産むのかと思っていたのに。吉川ちゃんが来てくれて。見ず知らずの松本さんまで付き添ってくれて。赤ちゃんに直接、可愛いって、無事産まれて良かったって言ってくれて」
吉川さんが山岡ちゃんの涙を、テッシュで拭いた。
「松本くん、デレデレだったんだよ。写真見る」
「見せて」
吉川さんが、赤ちゃんを抱いてデレデレしている、松本くんの写真を見せた。
「もう、松本くん、ありえないくらい赤ちゃんにデレデレしちゃってるんだよ」
「ほんとうだね。この写真、送ってくれる?」
吉川さんは、意外そうな顔をした。
赤ちゃんの顔が、あまり写っていなかったからだ。
「これ欲しいの?」
山岡ちゃんが、吉川さんの目を見て訴えた。
「ほしいよ。だって私の赤ちゃんを、私以外の人が、こんなにも可愛いって思ってくれている、写真第一号だよ」
そしてまた山岡ちゃんが写真を見た。
山岡ちゃん言う。
「いい写真だね」
吉川さんも言う。
「いい写真だね」
山岡ちゃんが、また言う。
「二人とも、私の赤ちゃんが産まれて来た瞬間に、立ち会ってくれてありがとう。赤ちゃんに可愛いねって言ってくれてありがとう。無事産まれてきたって喜んでくれてありがとう。パパも来てくれないのに……。あぁ……」
そして山岡ちゃんの目から涙が、ポロンポロンと溢れた。
それをまた吉川さんがテッシュで拭う。
分娩室に残っていた看護師さんは何故かもらい泣きしたようで。
看護師さんが、声をかけてきた。
「3人の写真をとりましょうか?」
山岡ちゃんが言う。
「お願いします」
そして分娩室で。
山岡ちゃんを挟んで、松本さんと吉川さんが並んだ写真が、撮られた。
泣き笑いして写っている山岡ちゃんが、とっても美しかった。
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