君と僕は、手をつなぐ

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君と僕は、手をつなぐ

 病院の帰り。  松本くんと吉川さんは、車中で会話した。  「赤ちゃん好きなんだ」  「ええ、可愛かったですね」  「変わっているね。男の人って、赤ちゃん好きじゃないでしょう?」  「ああ、僕は10歳離れた妹がいて……。それでおむつも替えていたから」  「そうなんだぁ。今日はありがとう。後でお礼するよ」  「本当ですか?」  「うん。本当だよ。何が良い?」  「じゃぁ……」  そして、その御礼が、アプリ女と会う日に松本さんが着る服を、吉川さんが一緒に買いに行くと言う……。  なんとも残念なお礼を要求されて。    山岡ちゃんが、赤ちゃんを産んだ週の土曜日が、そのお礼の敢行日となった。  ウキウキと、松本さんが吉川邸までやって来た。  「行きましょう」  そう言われて吉川さんは、松本さんと並んで歩く。  「嬉しそうだね。アプリ女と会う服を買うのが、そんなに嬉しいの?」  「いや、別にそんな訳では。それで、何処に行くんです?」  「立川で良いかと思う。そこなら男子服も案外売っているお店があるから。男子服って、なかなか売っているお店がないんだよね」  「あ、僕はいつもネットで適当に買ってます」  吉川さんは松本さんの服装を見て言う。  「だろうね」  「わかります?」  「うーん。だっていつも同じ服着ているしぃ。ポロシャツばっかり着ているよね。しかも白か黒ばっか。何で?」  「考えなくていいからですよ。買う時も、着る時もね」  吉川さんは、斬新な松本さんの考えに、半ば賛同した。  「はぁ――。なんか凄い考え方だね。私もそれ見習おうかなぁ。最近ファッション考えるのメンドイんだよ」  しかし、松本くんは賛同しない。  「あのぉ」  「何?」  「僕が言うのもなんですが、吉川さんは、もう少し女性らしくした方が良いですよ」  「うるさいなぁ!」  それで、機嫌が悪くなった吉川さんは、無言になった。  すると、松本さんが、吉川さんと手を繋いだ。  吉川さんが驚いて聞いた。  「これなに? なんで手なんか」  松本さんは焦る。  つい、吉川さんと一緒に出掛けられるのに興奮して、手を繋いでしまった。なんとか場を取り繕わなければと思う。  「いいじゃないですか?」    「何が良いの?」  「デートみたいで。僕は5年もデートしてないんです。少しデート気分味わいたんです。お願いします。これもお産のお礼に含めてください」  「そっか。じゃそれで良いよ。手を繋ごう。私も2年、手つなぎデートした覚えない、って言うかぁ! 手つなぎデートは、熊さんとした事ないって言うの!」  松本さんは驚いた。  「え? そうなんだ」  吉川さんは、松本さんの表情に、何かを感じ取った。  「え? 何?」  松本さんは、吉川さんに、どう伝えるべきか、悩みながら言う。  「いや、この間、僕……。道でばったり、熊さんと華ちゃんに、会ったんです。」  「会ったの? 私はまだリアル華ちゃんに会ってないけど。可愛かった?」    「そんなでもないです」  そんなでもないといいつつ、口角が上がった松本くんの表情を、吉川さんは見逃さなかった。  「良いよ、嘘つかなくて。可愛かったんだね」  松本くんはドギマギした。    吉川さんは悲しそうに言う。  「熊さんは、華ちゃんと手を繋いでたんだね」  松本くんは言わなきゃ良かったと思う。  「余計な話をして、すいません」  「いいよ」    松本くんが申し訳無さそうに言う。  「熊さんじゃなくて……。僕の手で我慢してください」  吉川さんは、松本くんの手を一旦離した。    松本くんが悲しげに、吉川さんを見る。  吉川さんがニッと笑った。  「我慢じゃなくて、私は握るなら、松本くんの手が良いよ」    一旦離した手を、吉川さんは、また松本さんの手に合わせて……。  吉川さんは、松本さんの手と、恋人繋ぎした。  松本さんの指の間に、吉川さんの指が挿し込まれて、二人の指はより絡まりあった。  吉川さんが微笑む。  「この方が、より恋人ポ」    松本くんが、吉川さんを見て、ニコニコと笑った。  
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