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ハンサムな女
熊さんに別れを告げられたけど、吉川さんは傷心するでもなく、会社の行き。
制服に着替えて売り場に立った。
吉川さんはインフォメーションのカウンターの中にいた。
吉川さんの隣には、高卒で入社してきた19歳の相澤さんがいた。
吉川さんが、相澤さんに確認するように言った。
「今日の出勤は、後はァ、藤井さんかぁ」
藤井さんは45歳のベテランパートだ。
45歳の割に、色気があって、中年以降のおじさんたちに大人気なのだ。
相澤さんが言う。
「藤井さんは凄いですよね。男性のお客さんのあしらいが上手くて。私には無理です。お客様が怖いです」
吉川が言う。
「まぁ、19歳だもんね。そりゃ、オジサンが怖いよね。私も最初はそうだったよ」
「え? 吉川さんでも、ですか?」
吉川が引き攣った笑顔で言う。
「私だって、若い時は、オジサンが怖かったよ。今はもう29歳だし。年齢ももうさ、オバさんって言うか」
相澤さんが慰めるように言う。
「吉川さんは、綺麗系だから。オバさんって感じではないですよ」
吉川さんが相澤さんを見る。
吉川さんは思う。相澤さんは可愛い。背が低めで、小柄で、丸顔だ。目はクリクリして、笑顔がなんとも愛らしい。
吉川さんがため息をつく。
「相澤さんは、可愛い系だね」
「よく言われます。でも私は吉川さんみたいに、ハンサムな女子に憧れるんです。背は高いし、物怖じしないし。サバサバしていて、見た目は綺麗だし。かっこいいです」
吉川さんは、困ったように言う。
「アハハ。ありがとう。でもそう言う女は、男受けしないから。憧れても仕方ないよ」
相澤さんが、思い詰めたように言う。
「私も、もっとハッキリ物が言いたいんですよ」
それから相澤さんが何か遠くに見つけた。
「あ、あの男の人……。また来た……」
相澤さんの表情が曇った。
吉川も、その男を見る。
時々タバコを買いに来るから、吉川さんも知っていた。背の高い、色白の、ヒョローとした感じの、吉川さんと同世代だと思われる男だ。
怯えた目で相澤さんが言う。
「あの男の人、いつもタバコを買いに来るんです」
「そりゃ、タバコは、こことサビースカンターでしか買えないから、買いに来るよね」
相澤さんが頷く。
「それはいいんですけど。あの人、タバコ買った後話しかけてくるんです。結構長く喋るんです」
「私とは、全く喋べらないけど」
相澤さんが、訴える目で言う。
「トイレ……。あの1番に行って良いですか?」
「1番? ああ。 良いけど」
そして、相澤さんはトイレ休憩に行ってしまった。
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