君は俺の、心の内を知らない

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君は俺の、心の内を知らない

 焼肉を食ベる会が終わり、松本さんは帰って行った。その後熊さんが、吉川さんに聞いた。  「脱衣所で、松本さんと、何を話していたの?」  吉川さんは、ちょっと笑って、それから答えた。 「ああ、下着姿でうろつくのはやめた方がいいって言われた」  熊さんは訝しんだ。 「なんでそんな事言うんだろうな?」  吉川さんは素直に心配されて嬉しい。 「さぁ、分かんないけど。私の事を心配しているポ。なんか、私さぁ。心配されてちょっと嬉しかったポ」  熊さんは、そんな吉川さんが気に入らない。 「ふーん。調子に乗るなよ。松本さんはただ、やらせてくれる吉川が好きなだけで。素の吉川が好きな訳じゃないからな。男なんてタダでさせてくれて、後腐れない女なら、何だって良いんだ」  吉川さんのテンションが下がる。 「知っているよ。だって松本さんは相澤さんが好きなタイプなんだから。私とは違いすぎるもの」    熊さんがズケズケ言う。 「夢見るなよ。吉川はオバさんで、もう失敗出来ないだろう。次の男がラストチャスだろ?」  吉川さんがキレる。 「失礼だな」 「男なんて、若い女が好きなんだよ」 「うるさい」  熊さんが持論を展開する。 「本当の事だよ。男は女に言わないだけで、みんな思っているんだ。標準の若い女の方が、美人のオバさんより価値があるんだぞ」  吉川さんは涙目だ。 「うるさい」  熊さんが分かったような顔で言う。 「松本さんだって、若くて素直で、初めて会った男なんかと、エッチしない女を選ぶと思う」  吉川さんはもう聞きたくない。 「うるさいよぉ。もう、分かった」  熊さんはしつこい。 「いや、ちゃんと俺が教えておく。住んでいる場所も電話番号も知らないような男を家に上げて、セックスするような女は、男は遊びの女としか思わない。松本さんだってそこは絶対そうだと思う」 「本当。熊さんて意地悪だよ。私の心をえぐってばかりだ」  熊さんが真顔でいう。 「お互い様だろう?」  吉川さんには心あたりがない。 「私が、熊さんの心を、いつえぐったの?」  熊さんは思う。  ――今もえぐっている――  ――吉川はいつも俺の心をえぐる――  熊さんが言う。 「吉川が気が付かないんじゃ良いよ。教えない」  吉川さんは少し考えて言う。 「遊びでも良いや。しばらく、それでも良いや。どうせ私なんてその程度の女だから、熊さんが浮気しまくった訳だし」  熊さんが捨て台詞を言う。  「俺が浮気したのは、吉川の気が強くて、可愛げがないからだ。お前は強すぎなんよ」  吉川さんの顔色が変わった。  そして無言で2階に上がってしまった。  熊さんは思う。 ――今、吉川が俺の心をえぐっている――
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