95人が本棚に入れています
本棚に追加
君は俺の、心の内を知らない
焼肉を食ベる会が終わり、松本さんは帰って行った。その後熊さんが、吉川さんに聞いた。
「脱衣所で、松本さんと、何を話していたの?」
吉川さんは、ちょっと笑って、それから答えた。
「ああ、下着姿でうろつくのはやめた方がいいって言われた」
熊さんは訝しんだ。
「なんでそんな事言うんだろうな?」
吉川さんは素直に心配されて嬉しい。
「さぁ、分かんないけど。私の事を心配しているポ。なんか、私さぁ。心配されてちょっと嬉しかったポ」
熊さんは、そんな吉川さんが気に入らない。
「ふーん。調子に乗るなよ。松本さんはただ、やらせてくれる吉川が好きなだけで。素の吉川が好きな訳じゃないからな。男なんてタダでさせてくれて、後腐れない女なら、何だって良いんだ」
吉川さんのテンションが下がる。
「知っているよ。だって松本さんは相澤さんが好きなタイプなんだから。私とは違いすぎるもの」
熊さんがズケズケ言う。
「夢見るなよ。吉川はオバさんで、もう失敗出来ないだろう。次の男がラストチャスだろ?」
吉川さんがキレる。
「失礼だな」
「男なんて、若い女が好きなんだよ」
「うるさい」
熊さんが持論を展開する。
「本当の事だよ。男は女に言わないだけで、みんな思っているんだ。標準の若い女の方が、美人のオバさんより価値があるんだぞ」
吉川さんは涙目だ。
「うるさい」
熊さんが分かったような顔で言う。
「松本さんだって、若くて素直で、初めて会った男なんかと、エッチしない女を選ぶと思う」
吉川さんはもう聞きたくない。
「うるさいよぉ。もう、分かった」
熊さんはしつこい。
「いや、ちゃんと俺が教えておく。住んでいる場所も電話番号も知らないような男を家に上げて、セックスするような女は、男は遊びの女としか思わない。松本さんだってそこは絶対そうだと思う」
「本当。熊さんて意地悪だよ。私の心をえぐってばかりだ」
熊さんが真顔でいう。
「お互い様だろう?」
吉川さんには心あたりがない。
「私が、熊さんの心を、いつえぐったの?」
熊さんは思う。
――今もえぐっている――
――吉川はいつも俺の心をえぐる――
熊さんが言う。
「吉川が気が付かないんじゃ良いよ。教えない」
吉川さんは少し考えて言う。
「遊びでも良いや。しばらく、それでも良いや。どうせ私なんてその程度の女だから、熊さんが浮気しまくった訳だし」
熊さんが捨て台詞を言う。
「俺が浮気したのは、吉川の気が強くて、可愛げがないからだ。お前は強すぎなんよ」
吉川さんの顔色が変わった。
そして無言で2階に上がってしまった。
熊さんは思う。
――今、吉川が俺の心をえぐっている――
最初のコメントを投稿しよう!