95人が本棚に入れています
本棚に追加
仕返しされる帰り道
吉川さんの仕事が終わったのは、21時だった。
吉川さんは従業員出入り口を出て、裏通りに出た。
この裏通りは、従業員の出入り口で行き止まりになっている。
そのため、従業員しか通らない、暗く寂しい通りだった。
寂しい通りを歩きながら、吉川さんは、相澤さんを思い出す。
相澤さんは、あれからすぐ、総務へ移動になったのだ。
「相澤さんは、総務に移動しちゃったなぁ」
相澤さんは、カウンターで揉めて、カウンター業務が怖くなってしまったのだ。
相澤さんは、あの後、帰ってしまった。
そして、上の人の決定で、そのまま総務に移動が決まったのだ。
――私も、総務に移動したいよ。もう、インフォーメーションカウンターに立つのが怖い――
しかし吉川さんは思い直す。
――いや違う! 怖くない! 怖くない! 私は強い! 私は強い!――
そうは思っても、体は正直だ。吉川さんは、トボトボと表通りを目指して歩く。
すると、不意に、吉川さんは、誰かに左右の位置を獲られた。
吉川さんが、自分の左右を確認する。
左右に一人づつ、若い男がいた。
吉川さんと、左に立つ男の目が合う。
男が言う。
「やぁ、さっきは、どうも」
左側の男が言う。
「やってくれたよなぁ」
「警備員なんか呼んでくれてさぁ」
吉川さんは、恐怖で頭がくらむ。
でも勇気を出して、走り出す。
しかし、吉川さんは前に進めない。
吉川さんが後を見た。
右側の男が、吉川さんのバッグを掴んでいた。
右側の男が、吉川さんの背中に手を回した。
「逃さないよ。俺たちと遊ぼうよ。吉川さんは美人だけど、いつもツンツンしていて、感じ悪よね。でも美人だし、スタイルも良いから、気にはなっていたんだ」
左側の男が言う。
「何処に行きたい? 居酒屋? それとも、もうホテルに行く?」
吉川さんは声が出ない。
吉川さんは、動けなくなる。
それで、その場にしゃがみこんだ。
身体の重心が、地面にめり込んだみたいに、吉川さんはしゃがみ込む。
左側の男が怒る。
「おい、立てよ。立って歩けよ」
吉川さんが泣き出す。
「あ、あ、ぁ、ぁ……」
すると右側の男が吉川さんを引っ張った。
「おい、立てよ。歩けよ」
吉川さんはてこでも動かない。
バッグを抱えて、地面にへばりつく様に、しゃがみ込む。
そして、恐怖で、声にならない、声を出して無く。
「あ、あ、ぁ、ぁ……」
左側の男が言う。
「参ったなぁ。おいケイタ、そっち引っ張って。俺、こっち引っ張るから」
吉川さんは、誰も通らないような、暗い夜道で、男二人に左右の肩を、引っ張り上げられようとしていた。
でも吉川さんは、耐える。
泣きながら、耐えた。
ケイタが言う。
「もう、なんだよ。この女はぁ」
左の男が言う。
「少し殴れば、言う事聞くんじゃない?」
ケイタが辺りに誰かいないか見る。
すると、人影が見えた。
ケイタが言う。
「カナイちゃん、ちょっと待って。人が来るから、いなくなったら殴ろう」
カナイちゃんが頷く。
その会話に、ますます吉川さんが怯えた。
吉川さんがうずくまって、その直ぐ側に若い男が2人立つ。
その横を、ケイタの見つけた人影が通って行く。
吉川さんがその人影を見る。
足元、そして手、腕、と視線を上げて、見ていく。
そして顔が見えた。
吉川さんは、顔が見えて、そして、その人影の手を掴んだ。
その人影は、手を掴まれて、ケイタとカナイちゃんと、吉川さんを見た。
人影が言う。
「迎えに来たんです。この人たちは誰です? なんでしゃがんでいるんですか?」
吉川さんが言う。
「松本さん、助けて……」
松本さんが、ケイタとカナイちゃんの顔を見る。
ケイタとカナイちゃんが逃げ出す。
松本さんが、逃げ出すのが、わずかに遅れたカナイちゃんを捕まえた。
ケイタは、カナイちゃんを置いて逃げてしまった。
「ケイタ! ケイタ!」
カナイちゃんが叫んだが、ケイタはさっさといなくなった。
カナイちゃんが、松本さんに掴まれた手を、外そうして暴れた。
しかし、松本さんは、カナイちゃんの腕を、後に向かってねじり上げた。
そして捻った腕を、カナイちゃんの背中側に回させて、松本さんはカナイちゃんの背中をとった。
松本さんが言う。
「話を聞かせてもらいます。まずは運転免許証を見せてください」
しかしカナイちゃんは免許証をださない。
松本さんが、カナイちゃんの腕を更に捻った。
「運転免許書みせてください」
カナイちゃんは仕方なく、財布から免許証を出した。
「写真を撮らせてください」
カナイちゃんは返事しない。
腕を捻る。
「撮っていいですか?」
カナイちゃんは頷いた。
松本さんが、免許証の写真を撮った。
その様子を見て、吉川さんは思う。
――人は見かけによらない――
最初のコメントを投稿しよう!