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君が僕にお礼する 2
吉川さんが、二人を、口は悪いが、的確に紹介した。
「メガネかけていながらアホ面で、センスの悪い方が平川。賢くて、全体的にセンスの良い方が、山本くんだよ」
平川くんが文句を言う。
「アホ面って言うな」
「だって、アホだからさぁ」
「山本、なんか吉川に言ってくれ」
山本くんが冷静に言う。
「まぁ、そうだな。吉川ちゃん、本当の事を言う時は、気を使わないとね」
「そうなんだぁ。勉強になったよ、山本くん」
山本くんがにっこり微笑む。
平川くんと山本くんは、勝手に、吉川さんのテーブルに付いてしまった。
吉川さんが聞く。
「なんでの店にいるの?」
平川くんが説明した。
「何でって、今日はバスケチームの練習日で、バスケの練習が終わると、俺たちはみんなでここに来る事が多いんだ。日曜日は、この辺は、休みの飲食店も多いし。大人数で席を予約できる店も少ないからさ。この店が丁度いいんだよ」
平川くんは、社会人になってから、地元の仲間を集めてバスケチームを主催している。
時々、大会にも参加している。
吉川さんが不満げに言う。
「そうなんだぁ。そうと知っていたら、ここに来なかったよ」
「え――――、なんでだよぉ。俺たち親友だろう? なぁ山本もそう思うだろう?」
山本くんの答えは、歯切れが悪い。
「まぁ、平川はそうかも知れないけど」
吉川さんが、ニコニコ顔で言う。
「私は、山本くんなら親友でも良きよ」
山本くんが笑う。
でもその笑いには、憂いが混ざっていた。
山本くんが聞く。
「この方は、どなたですか?」
「松本さんだよ。この間ちょっと危なかったところを助けてもらったお礼で」
山本くんの表情が曇る。
「危ないって?」
「夜道でさぁ。襲われてね」
平川くんも驚いた。
「吉川ぁ。お前、一応女なんだから、気をつけろよ」
平川くんが松本さんに礼を言う。
「うちの吉川を、助けてくれてありがとう」
松本さんが、礼を言われて困る。
「いやそんなぁ」
山本くんが更に聞いた。
「店の帰りの襲われたの?」
「そうなんだけど」
山本くんが申し出る。
「俺が……。お店の終わるのが遅い日は、迎えに行こうか?」
平川くんが口を挟んだ。
「なんで、山本が行くんだよ。会社や自宅と、全然場所が違うだろう?」
「いや俺、大丈夫。車もあるし」
松本さんがオロオロしながら言う。
「吉川さんは、大丈夫です……。僕は……、家が近いんで。僕が遅くなる日は行きます。熊さんとも連絡を取り合う事になったんで……」
吉川さんが言う。
「え! 何で熊さん! 聞いてないよ」
平川くんが感激して、ビール瓶から松本さんのコップに、ビールを注いだ。
「吉川、好意は無碍にするな。松本さんは良いやつだなぁ。これでも飲んでくれ」
吉川さんが文句を言う。
「それ、うちらの頼んだビールだから。ところでさぁ」
吉川さんが、バスケ仲間が座る席を見て言う。
「さっきから、あの子からの視線を感じるんだけど」
平川くんが、横目で席を確認して言う。
「ああ、琴音ちゃんね。あの子山本狙いで、バスケチームに入ってみたいで。山本がこっちのテーブル来ちゃって、ヤキモキしてるんじゃないのぉ」
吉川さんが焦る。
「え? そうなの? じゃ、はやく戻って。なんか私睨まれている気がする」
平川くんが山本くんに聞く。
「帰るか?」
山本くんが頷く。
平川くんが、椅子から腰を浮かせつつ言う。
「じゃ、またそのうち飲み会しようぜ。山岡ちゃんによろしく伝えてくれ」
「自分で伝えなよ」
「俺さぁ。悲しいのよ」
「何がぁ」
平川くんは、耐えるような顔で言う。
「山岡ちゃんが好きだったから。山岡ちゃんが結婚して、俺は一度死んだ。そして山岡ちゃんが子供を産んで、俺は2度殺されたんだ」
吉川さんには、ピンとこない。
「何言っているの?」
「これで永遠に、山岡ちゃんは、俺の彼女にはならないって、最後通達された気分なんだよ」
吉川さんは、説明を受けて、なお謎だった。
「そうなんだ。よくわかんないわ」
平川くんが納得したように言う。
「でもさ。山岡ちゃんが幸せなら、俺は嬉しいし。きっと良い旦那さんなんだろう? 老舗の寿司屋で、ビルオーナーなんだろう? 貸しマンションも経営していて。玉の輿っていうの?」
「そうだね。幸せだよ。だって可愛い女の子が産まれたからさ」
「じゃ、俺たち、戻るわ」
「うん、また」
松本さんが言う。
「仲良しなんですね」
吉川さんが言う。
「そうだね。良い奴らだよ」
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