婚活アプリ始める

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 熊さんと別れた日。  吉川さんは、仕事が終わると、家に帰らず、親友の山岡ちゃんのマンションに寄った。  山岡ちゃんが驚いて言う。  「え? 熊さんと別れたの? 意外だわ。熊さんは吉川ちゃんにぞっこんだったのに」  吉川さんは、不満顔だ。  「何時の話よ。今じゃ倦怠期の夫婦より、距離があるよ。あいつ、もう、彼の女いるし」  「彼女? え? 同居していたのに、彼女作ってたの?」  「そうだよぉ」    ガッカリした顔で、山岡ちゃんが言う。  「知らなかった。私はてっきり、二人は結婚すると思っていたから」    「それで、婚活アプリしようと思って。婚活アプリの先輩の山岡ちゃんに、教えてもらいに来たんだ」  吉川さんが、今日山岡ちゃんのマンションに来た、一番の理由だった。  「ああ、いいよ。私は結局アプリでは結婚相手見つかんなかったけど。おじさんの紹介で、結婚しちゃってぇ。でもアプリで知り合った人と、半年付き合ったし。まぁ、アプリがどんなところかは分かるよ」  「ねぇ、ねぇ、どうしたらいい?」  「婚活なら、4社くらい有名アプリがあるけど。ピーチズあたりで良いんじゃない」  「じゃそれにする」  吉川さんは、顔認証通して、無料アプリを購入した。  「はい入れた」  二人で、吉川さんの携帯をガン見する。  「それから、マイページ作るでしょう。あっとぉ、実物の顔を読み込ませるのが先かぁ」  吉川さんが、アプリに自分の顔をかざす。  それが終わって、吉川さんが、携帯画面に登録項目を入力していく。  山岡ちゃんが言う。  「ここでフィルターもかけられるよ。自分が好む男の条件を入れてさ。既婚者NGとかね」    吉川さんが、山岡ちゃんに聞く。  「アップする写真とか、どうするの?」  「まずは適当でいいよ。写真はねぇ。これとか入れとけば。清楚そうだし」  吉川さんは何も考えず、言われた通り作業をこなしていく。  「はい、入れた」  山岡ちゃんが満足げに言う。  「そこから今度は、免許証とか、保険証を読み込ませるんだ。その審査が通ると、イイねとか、メッセージとか送れるようになるからさ」  しかし審査が通る前に、どんどんどんどん、イイねがされていく。  男の入れ食いが、今眼の前で起こった。    「ねぇ、ちょっと。なんか、アップした瞬間、イイねがドンドン来るけどぉ。怖いけど」  「吉川ちゃんは、美人だからだ、そりゃ来るよ。でも1週間が勝負だよ。トップページの新着に1週間載るから。その間に如何に集客できるかよ。その間に、どんだけ男が釣れるか勝負よ!」  「え? そうなの?」    「新着の登録者が来るからさぁ。どんどん埋もれていくだけなのよ。でも、吉川ちゃんなら、きっと1000人は越えるよ。でも千までしかカウントしてくれないけど」 「千超えると分かんないんだ」 山岡ちゃんの説明は続く。 「そそ。そこから好みの男にイイねして。男からダイレクトメールが返って来たら、1週間から2週間くらいやり取りしてさ。ラインを交換するか、アプリ内の電話で通話するかして。そこからまた1週間から2週間やり取りしたら、リアルで会うかんじかなぁ」  「へぇー。会うまでに3週間から1ヶ月掛かるんだ」  「案外、手間がかかるよ。超めんどい」  山岡ちゃんが悲しげに言う。  「でもさぁ、1000人集客しても、気に入る男は、数%いるかいないかよ。あんまり期待しないほうが良いよ。所得や学歴は良くてもさぁ。好きなタイプの外見の男が来るかはわかんないしね。コミュ障もいるし」  吉川さんは、どんどん増えるイイねを見て、恐怖を覚えながら、頷いた。
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