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婚活アプリ指南
吉川さんと、松本さんは、駅チカの喫茶店に入った。
吉川さんはオレンジジュースと、ベーグルのブルーベリー&クリームチーズサンドを頼んで、松本さんはアイスコーヒーを頼んだ。
松本さんは、小さな黒いバッグから、携帯を出しながら言う。
「相談って言うのは、婚活アプリなんですけど」
吉川さんが、松本さんの話に、一気に興味持った。
「松本さんは、婚活アプリをやっているんだ」
残念顔で、松本さんが言う。
「そうなんですけど……。イイねもつかないし。イイねされても、メッセージは無視されるし。挙句ブロックされるんですよ」
吉川さんは、ジロジロと松本さんを見る。
「ふーん。同年代なら、見た目は良い方なのに。何がダメなの? 年収? 学歴?」
もじもじしながら松本さんが言う。
「まぁその辺は恐らく普通では……」
「見せてよ。松本さんのマイページをさぁ」
更に松本さんがモジモジする。
畳み掛けて吉川さんが言う。
「アプリ、見せてよ。助言してあげるよ」
それで松本さんが、吉川さんに、自分の携帯を渡した。
吉川さんが、携帯画面を見ながら言う。
「あ――――。プロフィールは、大学名は国立大学だけにしときなよ。Sランクの大学卒もごろごろいるから、下手にSランクの大学以外の大学の名前書くと、女が大学名見て、この男はいらないって思うから。Sランク以外にも、医者とか歯科医師とか、経営者とかいっぱいいるしさ。Sランク以外の大学名だと、書損だよ」
松本さんがビビって聞く。
「そんなにごろごろしているんですか?」
吉川さんが自分の携帯を松本さんに差し出す。
「見る?」
松本さんは、吉川さんに渡された携帯画面を見ながら言う。
「え? 吉川さんもアプリやっているんですか? ああ、こんなに高学歴男子が……。しかも理系が多いですね。あ、これじゃぁ、僕なんかやっと平均です。うーん、平均スレスレかなぁ」
「男子は女子のプロフィールしか見えないもんね。女子も男子のしか見えないけどさ」
訝しげな顔で松本さんが言う。
「しかし、これ、本当のプロフィールですか? こんなに高学歴で高収入の男が落ちているもんですか?」
「さぁ、どうだろうね。でも友だちもアプリで男見つけたけど、高学歴男子だったよ。旧帝の大学院卒だって」
「これって、1000イイねもついて、まだ20代の吉川さんだから、こう言う人たちが押し寄せているんじゃないですか?」
吉川さんは首をかしげる。
「結局、ライバルがどなっているかは、わかんないからさぁ。私以外の登録している女子が、どうなっているかは謎だよね」
松本さんが、吉川さんに、踏み込んで聞いた。
「吉川さんは、高学歴、高収入男子を見つけるために、アプリ始めたんですか?」
「そりゃ高学歴で、高収入は魅力だと思うよ。でも一番の理由は、3年付き合っていて、結婚すると思っていた男に、少し前に振られて。もう、やけよ。それでアプリを登録したけど。良いのがいないんだ」
「それは……」
哀れんだ目で松本さんが、吉川さんを見た。
「憐れまないでくれる。余計心が荒むから」
松本さんが、吉川さんの携帯画面を見ながら言う。
「1000イイね来ているのに、何で良い人がいないんですか?」
「それがさぁ。50人くらいイイねきて、これでも良いかなって思えるのは、1人くらいだな。写真とプロフィールでいいと思っても、メッセージをやりとりすると、違うなって思うんだよね」
松本さんが、呆れて言う。
「だとしたら、1000イイねきても、20人しかイイねしないんですか?」
吉川さんが頷く。
「そうだよ。その20人の中で、メッセージやり取りして、5人位が、今のところ残っているけどぉ」
松本さんは目が点になる。
「1000人中たった、5人ですか?」
「そうだよ。明日あたりから、今度は電話して、更に人数を絞るんだけどさぁ。何人が残ると思う? 誰も残らなかったらと思うと、心配で仕方ないよ」
松本さんの顔が絶望に変わっていた。
「婚活アプリの世界って、そうなっていたんだ……」
その顔を見て、クスッと吉川さんが笑う。
「笑わないでくださいよぉ」
「ごめん、ごめん。なんか、気の毒になって、つい笑ってしまった」
松本さんが抗議した。
「気の毒だから笑うって、可笑しいでしょう!」
「あ、そうかも。ごめん。私って性格悪いからさぁ」
それから、吉川さんが松本さんの携帯画面を見ながら言う。
「男は100もイイねあれば良い方だからね。なに? え? 松本さんは7イイねなの?」
吉川さんが、松本さんの携帯画面を、指で動かしながら言う。
「ああああ、写真がぁ。実物より悪いよ。どうした? 松本さん」
松本さんが照れて言う。
「ほら、見てくれで選ばれるのは嫌じゃないですか? なんて言うか、僕自身を見て好きになって欲しいって言うか」
吉川さんが冷たい目で松本さんを見た。
「じゃ、松本さんは、アプリでどんな女にイイねしているの?」
「それはぁ……。写真見て……よさそうな人を」
「うん、そうだよね? 良さそうな人ってどんな人? 例えば、好みじゃない顔の女性をイイねするの?」
「しません……」
吉川さんが呆れて言う。
「しないよね。写真やプロフィール見ても、人柄なんてわかんないんだから。しかもアップしてある写真は、加工写真も多いんだからさぁ。松本さんが、なんにも加工してない写真で、しかも写りが悪い写真で勝負しても、イイね来ないよ」
「確かに……」
「最初に、年収や学歴、既婚、未婚、身長でフェイルター掛けちゃえば、男のプロフィールなんてもう横並びだから」
「そうですね……」
吉川さんは、大きく頷いた。
「フィルターかけた後に、差がつくのは、容姿だけだよ。もっといい写真ないの? ちょっとアルバムのアプリを見せて。少しは見栄えの良い写真に、差し替えようよ」
こうして松本さんは、しばらく吉川さんに、ダメ出しをし続けられた。
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