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というか……。
目の前にいる男子は、逃げなくていいのかな。
「逃げた方が、いいんじゃない?」
「俺が? なんで」
「だって、危ないから……」
「……」
何も答えなかった男子は、近くにあった誰かのノートを手にする。
それをメガホンみたく筒状にして、ゆっくりと音を立てず、空気すら揺らさないように移動しながら、席に座る私の前に立った。
男子とハチの距離は、まさに目と鼻の先。
危ないよ――
そう言おうとした矢先。
男子は、メガホンを持つ腕を振り上げる。
そして、触角が気になるのか、まるで毛づくろいをするハチの真上から、ソレを叩きつけた。
バシンッ
その瞬間、私は思わず目を瞑る。
男子が叩き損なった事も見据えて、逃げた方がいいのに……足が動かなかった。
ギュッ
怖くて、開けられない目。
すると――
「いいぞ」
「……え?」
「もう仕留めた」
「あ……、本当だ」
見ると、少しへしゃげて横になったハチの姿。
一発でハチを叩き殺したって事?
すごすぎる……。
「あの、ありがとう。ハチを叩けるなんて、すごいね」
「別に。獲物が大きかったから、逆に狙いやすかった」
教室にあったテイッシュを持って来、しゃがんでハチに被せる。
そしてもう一度、テイッシュの上からスリッパで踏んづけた。
ダンッ
「わ……、ビックリした」
「念のためだ。確実に殺しておかないと、危ないだろ」
そう言って、男子は今度こそ、ハチをテイッシュで覆ってゴミ箱に捨てる。
覆う前に、針が出てないかも確認してた。
まるでプロのような手さばきに、思わず小さな拍手をしてしまう。
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