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「…………学校だ」 『そうだなぁ、もう何ヶ月も前から学校はあるな。……急にどうした』 「いや、今日も学校だなって」 僕が偉い人に引き取られて八年と少し、十六歳になった僕は学園に通うようになった。 フィルから必要な知識や常識を昔から教えてもらっていたから、日常生活を送る事に不便を感じることはないんだけど、ひとつ問題を挙げるなら、 「レイ・セントベル!もう我慢ならねぇ!俺と決闘しろ!」 こうやって、喧嘩を売ってくる人が何日かに一人はいることかな。 「我慢ならないってなに?もうって言われるほど一緒にいた記憶もないけど?というかそうやって僕に決闘を申し込んでくる人たちがいるから、授業あんまり受けれてないんだけど。学校ってなにやるところか知ってる?」 『大体正論ではあるな』 「馬鹿にしてんのか?俺はお前より先輩なんだよ!」 「年上ってだけで威張るとかどうなの?威張りたいなら僕より優れているところをいいなよ。僕より何年か早く生まれてきたってことはそれだけ時間があったんでしょ?僕よりも多くのことを知っているはずだよね。………ああ、遊び呆けてて、勉強してないのか。すみませんね、先輩」 「~~~っ!初級魔法しか使えない落ちこぼれが!『フレイムランス』!」 「『ウィンド』『ファイア』」 何故か顔を赤くして、魔法を放ってきた喧嘩を吹っかけてきた人。 そういえばこの自称先輩の名前覚えてない。 …まあいっか、あまり興味もないし。 飛んできた炎の槍を風で吹き飛ばしてから、自称先輩の周りを囲むように炎を出現させた。 「なら落ちこぼれに負けるあなたはなんなのか聞いていい?むしろ初級魔法なんだからさっさと相殺するなりなんなりしなよ。グズグズしてると焼け死ぬよ?」 炎は時間経過で人に近づいていく。 普通に人につけることもできるけど炎が近づいてくる方がなんか怖くない? 自称先輩は必死に相殺しようとしているけど消える気配は微塵もない。 「もうそろそろ降参してもらってもいい?僕も暇じゃないんだよね」 「誰がっ、降参なんて」 「そっか、じゃあこれ以上は時間と魔力の無駄だからサクッと意識ごと飛ばしちゃうね。『ウィンドボール』」 風弾は自称先輩に当たって、そのまま自称先輩を吹き飛ばしていった。 ……あ、落ちた。炎の中通ってたし、頭から落ちてたけど大丈夫かな? 「さて、行こうかフィル」 『レイ。お前はちょっと周りを見るってこと覚えような』 ん?言われた通り周りを見ると見知った顔が僕を見ているのにを気付いた。 「おはよう、サリア、ガルフ、エルド」 「あ、おはよう!レイくん」 「はよ」 「おはようレイ。君はいつも目立ってて見つけやすいね」 「決闘を申し込まれるのは僕のせいじゃないんだけど」 「それにしても、初級だけで器用なことするな。魔力を込めて上級並みにするなんて」 「中級をあんな簡単に散らされると魔力コントロールがいかに大事かわかるね。あの先輩も派手に飛んだ割には意識失ってるだけで骨も折れてないし」 「火を出すだけの魔法を対象の周りを囲むように展開させられるの凄いよね!さ、触ってもいいかな?」 「サリアはフィルの事好きだよね、いいよ」 「こんな、かっこいい狼に触れられるんだよ?しかも凄く手触りもいいし!」 「じゃあ、教室に行こうか」 サリアがフィルに触って騒がしくなるのは毎日の恒例行事みたいなものだから軽くエルドがスルーして促してきた。 僕達が動き始めるとサリアもフィルに抱きつきながら追いかけてくる。 …言い忘れてたけど、学校でフィルは狼の姿になってる。 フィル曰く悪魔の姿が見られるとめんどくさいことになるんだとか。 「……このように稀少属性の闇と光は互いに反対の性質を持つとされるが、闇は侵食で光は治癒だという意見も大きい。侵食されたものは一瞬消失のようにも見えるが実際はどこかの空間に隔離されたという考えが正しい。しかし、そこに正しい方法で入らなければ生き物は闇に侵食された時点で死に至る。正しい道は光で照らせば示されるという伝承もあるが、見つけられた例はなく…」 [フィルは闇魔法の中がどんなところか知ってるの?] 授業中、あまりに退屈で、フィルに念話で話しかけるのも恒例となっている。 『あー?………概念がない世界とでもいえばいいかぁ?』 [?] 『動くという概念がないから身動きが取れねぇ、呼吸も、視界で周りを把握することもできねぇ。そもそも空気もねぇから呼吸できても生きてけねぇ、けど死という概念もねぇからそこにいる奴は全員生きてんぜ。……そこから出て生きていけるとはおもえねぇけどな』 [ふーん] 「本日の授業はここまでだ。復習をしっかりしておくように」 教師が教室から出ていくと俺の元に三人が集まってきた。 「レイくん、今日放課後空いてるかなぁ?」 「予定は無いけど」 「サリアがずっとレイと遊びに行きたかったらしくてさ。レイが良かったら付き合ってあげてよ。僕たちも一緒に行くし」 「サリアだけじゃなくてエルドも楽しみにしていたようだから断らないでやってほしい。もちろん俺も楽しみにしていたが」 「ガルフ、要らないことは言わないでも良いんだよ」 「えっと、じゃあ、放課後は真っ直ぐ街に行くっていうことで良いの?」 「うん!」 『楽しんでこい。俺はちょっと元の姿に戻って羽を伸ばしてくるからよ』 [え!?フィル来ないの?] 『ガキの遊びに付き合うほど暇じゃねぇよ。…………まあ、今日は用事があってなぁ』 後から聞いてみたらこの時フィルは昔の契約者の魂を取りに行っていたと教えてくれた。 [そっか…。じゃあ仕方ないね] 「あー、フィルは来ないみたいだけどそれでも良い?」 「まあ、いいんじゃない?」 「エルド!私の方を見ないでくれる?…私はレイくんがいるならそれでいいから!本当だよ?」 「うん、わかったから、そろそろ席に戻った方が良いよ。…先生がサリアを見て青筋立ててるから」 「ん?………ひぇ、すみませんでした…」 その授業ではサリアがたくさん発表したとだけ言っておく。 ちなみにエルドとガルフは素知らぬ顔で自分の席に戻っていた。 いつの間に戻ってたんだろうね? 「………では、HRを終わります」 「「「ありがとうございました!」」」 先生が教室から出て行くとサリアが近づいてきた。 「レイくん!早く行こう?」 「んー、まだフィルを見送ったりしてないし、帰る準備もしてないからもう少し待ってくれる?」 「というかサリアはもう準備終わってるの?すぐにレイのところに行ってたけど」 「……私も終わってないや!ちょ、ちょっと待っててね!」 「………サリアってなんであんなにあほなのかな?」 エルドがボソッと言った言葉には気付かなかったらしいサリアが僕の元に戻ってくる頃にはやることは全部終わっていた。 と言ってもフィルはいつのまにか消えてたんだけど。 みんなの準備が終わってから街に行ってみんなで食べ物を買い食いしたり服を選びあったりしたあと、ゆっくりと街を歩いていたら、エルドに肩を叩かれた。 エルドの方を向くとある店を指が示していて自然その店に注目がいく。 「レイ、次はあそこに行こう」 「あそこって、魔道具屋?」 「そうだよ。きょ「今日の記念に俺たちから贈り物をしたいんだがいいか?」…ちょっと、僕の言葉取らないでくれない?」 「ああ、まあ、エルドたちがいいなら好きにしたらいいと思うよ」 「そう言ってくれて嬉しいよ、じゃあ行こうか」 言いながら、腕を掴まれて店に連行された。 店の中には普段使っている日常的に必要なもの物もあれば見たこともないものもある。 三人が盛り上がっているのを横目に、目に入った物を購入する。 「あれ?レイくん、何か買ったの?」 「うん、少し気になったものがあって」 「そっか!」 サリアと話しているとエルドたちも買い物を終わったようで一緒に店を出る。 エルドたちから贈られたのは魔力を貯めて好きな時に取り出せるネックレス型の魔道具だった。 普段から喧嘩を売られているから少しでも魔力不足になる可能性を減らす為らしい。3人で考えたのだと笑っていた。 「ありがとう、大切に使わせてもらうね。じゃあ、これは僕からみんなに」 サリアには薄いピンク、エルドには黄緑、ガルフには深い青の魔力増幅魔石を上げた。加工とかは分からないから自分達でやってほしい。 「ありがとう!嬉しい!」 「ピアスにでもして着けるよ。ありがとうレイ」 「大切に使う」 「うん。じゃあ、そろそろ時間が遅くなってきたから帰るね」 「うん!じゃあね!」 「また学校でね」 「ああ、またな」 三人の反応を確認してから家への帰路につく。 「レイくん」 ふと、呼び止められた気がして振り返ると、3人が僕の方を向いていた。 やり忘れたことでもあるのかと首を傾げると、何かを決意したかのような顔をしてサリアが一歩前に出た。 「あの、私たち、ちゃんと友達だよね?」 その言葉の答えを示すかのように、ガルフとエルドも僕に微笑みかけてくる。 「………うん」 友達、友達かぁ。 なら、一緒にいるのが当たり前だよね?
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