鼠と恋の年を

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「困ったな」 「それよりも、今日のことをお忘れでないかい?」  ユウちゃんは「そんなことよりも」とばかりに話を逸らす。  それに「どうしたんだ?」とネズミも話しているので私にはうるさい。 「一年班を決める日でしょ。忘れてないよ」  私の高校では三年生になると男女四人のグループを作る。勝手な風習だ。このグループは三年の間の行事を、全てこのグループで担う。苦手な人がいたら最悪なんだ。 「この学校では一番重要な日なんだから。ネズミなんて気にしないで、集中しなさい!」  まあ、一大イベントになる。誰だって仲良しとグループになりたい。だから、クラスは騒いでた。 「それじゃあ、一年班のくじ引き始めるぞー」  担任教師がのどかに良いながら箱を持っている。そして運命の選択はなされた。 「あたしら二人は良いとして、そっちはどうなん?」  なんと、嬉しいことに私はユウちゃんと一緒のグループになれた。しかし、男の子二人はあまり親しくない。 「これからよろしくってところかな?」  ユウちゃんの話した言葉に返すのは優しそうな表情の男の子。取り合えず優しいからシイくんとでも呼ぼう。  問題はユウちゃんの言葉にも答えなかったほう。明らかなヤンキーくん。あだ名はヤンくんしかない。 「これは面白い取り合わせだな!」  ネズミのことは取り合えず無視をして「よろしくね」と男の子二人に話すが、シイくんはにこりとしてくれたが、ヤンくんはブスっとしかしない。 「ねえ、また名前つけたの?」 「ユウちゃん、それは黙っておこうよ」 「でも付けたんでしょ?」  ユウちゃんに話しかけられて「一応」なんて言いながら私は男の子二人を見る。怒られそう。 「なんなの? 気になるなー」 「この子さー。人に勝手なあだ名を付けるのが得意なんよー」  シイくん疑問からユウちゃんが話を進めてしまう。 「ふーん。僕にはてなんて付けたの?」  当然こうなればシイくんは私にあだ名を聞く。 「えーっと、優しいからシイくん」  ポツリと呟くように話すと「うん。良いね」とシイくんは了承してくれたが、その時のヤンくんの視線がちょっと怖い。 「ならさ、彼のことは?」  しかし黙っていることなんて許されないみたいにユウちゃんからの催促が有る。  だから私は申し訳なさそうに「ヤンくん」とサイレントに語る。 「見た目ヤンキーだから、ヤンくん? まんまじゃん」  笑ってるのはユウちゃん。そして横でシイくんもクスクスと笑ってる。 「じゃあ、君はあだ名を付けるからナーちゃんだね」  これまではあだ名を付ける立場。それが今回はシイくんに付けられた。悪くはない。 「良いんでないの? ナーちゃん。ユウちゃんからもお勧めだよ!」  ユウちゃんが自分のあだ名も明かしながら笑い話になった。ヤンくんを眺めるとそんなに怒ってない様子なのでホッとする。  それからこのグループでは私の付けたあだ名で呼び合うようになった。ユウちゃんとは仲良く、シイくんはりだー的に、ヤンくんも言われたことは進めて、直ぐに三か月が過ぎる。 「おい! 俺様のあだ名はまだ付かないのか?」 「ネズミにあだ名なんて必要ないでしょ」  もちろん幻覚ネズミはまだ消えない。毎日私について回ってる。 「つまんねーね」 「ネズミで十分でしょ?」 「ジキル様でも良いんだぞ?」 「バカなことを言わないでよ!」  なんだかネズミとは結構親しんでしまってた。 「んじゃ。一年班定期報告書をだしてくるからねー」  親しんでいるのはネズミだけじゃあない。私たちグループもそれなりに親交を深めている。  とは言え私はまだヤンくんとは言葉をそんなに交わしたことがない。リーダーのシイくんとユウちゃんが定期の報告に向かうと私とヤンくんが待つことになる。 「えっと、ナーちゃん?」  なんと普段は喋らないヤンくんから声が掛かった。 「はひ? ななな! なんでしょう?」  当然私は怯えている。 「そんなに怖い?」  目つきが悪いと思っていたヤンくんだけど、良く見るとそうでもない。 「うーん、勝手にあだ名とか付けてるから怒ってるかもって」  こういう時は正直に話してみる。 「こんなの気にしてないし怯えられたら俺が弱るかな」  結構気軽な雰囲気で話してくれるから悪くないのかもとすら映る。
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