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「あれー? ナーちゃん、ヤンくんと恋人的になってる」
戻ったユウちゃんとそしてシイくんがにこやかに私たちを見ていた。
「普通に話してただけだよ」
私がそう話してもユウちゃんは「ふーん」なんて楽しそうにしている。冗談めかしてるんだ。けど明るくもなる。
その日の帰り道、シイくんとヤンくんとは別れてユウちゃんと帰る。まあ、これは一年班を組む前からのこと。
「やー、一年班で組んだらカップルができるって噂があるからねー」
それはどうやらさっきの話の続きみたい。
「へーそうなんだ。私はそんなの有り得ないけど」
「そんなことをお言いでないよ。シイくんとヤンくんならどっちが好み?」
非常に楽しそうな表情にユウちゃんなっている。
そして私の肩で「俺様も気になるな」とネズミまでこんな風に語る。
「どっちなんてないよ」
「なーんだ。ナーちゃんはやっぱりジキル様だけなのかー。つまんないなー」
「つまらなくて、すいません」
それは間違いない。私にとってはジキル様は特別。他の男の人なんて比べられない。
「でもさ。シイくんってちょっとジキル様に似てない?」
ユウちゃんの言葉に私は首を傾げる。そんなにシイくん、どころかヤンくんも含めて現実の男の人の顔なんて気にしたこともなかった。
「どうなんだろう?」
こんな風に語ったのだけど、それからシイくんのことを観察するようになった。だってジキル様との共通点なんて見てみたい。
すると、ふとした表情が似ている部分も有る様な気がする。そして他の男の子たちのことも見てみる。ヤンくんも。
確かに周りの女の子たちが騒ぎたくなる人は格好良い。シイくんも人には惚れられるんだろう。でも私は違った。ジキル様が一番。
「案外恋愛なんてつまらないもんだねー」
高校生活も半年を過ぎた。最近ユウちゃんは彼氏と別れたらしい。
「いや私はしらないけど、次を探せば良いじゃん」
「そりゃあ、振ったからには次を見つけないと。ナーちゃんも探したら?」
「私は今のところ恋人は必要ないかな」
「それはジキル様が居るから?」
うん、その通りだ。この間の新曲もとても格好良かった。こんなのに勝てる人なんて居ない。
「でもさ、最近のナーちゃん。楽しそうじゃん。一年班の恋物語は噂じゃないのかなー、なんて」
「普通に仲良しになっただけでしょ?」
「長年ナーちゃんを見てたらわかるよ。普通とは違う」
そんなことを言われても私にはわからなかった。
確かにグループで居るときはとても楽しい。ユウちゃんが笑わせて、シイくんがそれを広げる。そしてヤンくんも加わってる。私だってみんなと親しみやすく振舞ってるんだから当然。
だけど、そこに恋心なんてのは有るのだろうか。ジキル様を基準にしたら二人のことなんて気にならない。
夏の終わりに私は音楽を聴いてた。もちろんジキル様のバンドだ。誰も居ない教室でこうしている時間は至福の時だ。
「おーい、どんな曲聴いてるのー? 教えてよ。聞こえてる?」
どこか遠くのほうで誰かの声が聞こえる。私に話しかけてるとは思わなくて気づかなかったけど、肩を叩かれて振り返る。そこにはシイくんが居た。
「ちょっと待って! 近い!」
ついそう言うほどにシイくんが傍に居た。それはもう顔がくっついてしまいそうなくらいに。
「アハハハッ、ごめん。聞こえてなかったみたいだから、おどかそうと。ふーん、これはジキルでしょ? 好きなの?」
笑ってるシイくんだけど、私は十分に驚いている。それはもう言葉もないくらいに。
けれど、質問に対しては頷いて答えた。返事をしないからなのかシイくんはちょっと怪訝な顔をしている。
「今度の体育祭。リレー頑張ろうね」
邪魔になっているのかと思ったみたいで、シイくんは直ぐに私の元から離れる。
「頬が赤いな」
要らんことをネズミが話してる。
本当にうるさい。
私の心臓は鼓動を高く木霊していた。
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