鼠と恋の年を

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 一年班は体育祭でも利用される。それは各グループでリレーを行う。メイン企画。かなり切実な戦いだ。 「さて、この班なら勝てそーな気がするんだけど」  ユウちゃんが私とシイくんにヤンくんを眺めて語った。  確かにシイくんとヤンくんは運動部だし足は速そう。そしてユウちゃんも元運動部で足にはかなりの自信がある。お荷物は私だ。 「私は自信ないよ。普通には走れるとは思うんだけど」 「ナーちゃんのことはわかってる。その分はあたしたちがカバーするよ。だからさ、みんな。勝たない?」 「折角ならそうだよね。勝ったほうがおもしろい」  正直真剣にならないグループもある。だって、個人競技ではなくて運動能力で振り分けられてもないから。  それでも私たちのグループは速そう。本当にこれなら学年一位も取れそうだ。 「試してみる価値は有るな」  普段は無口なヤンくんまでそう言うから私たちは予選から真剣に挑んだ。  真剣に挑むと簡単に勝ち上がって決勝になる。だけど相手は強敵ばかりが残ってる。 「こういう時は円陣でも組もうか?」  シイくんの提案で四人で肩を寄せ合う。 「みんなで最高の思い出を作ろうな!」  リーダーのシイくん掛け声で一丸となって競技に向かう。  一番手のユウちゃんが好スタートで淀みなくヤンくんにバトンが渡った。その時には一番手。私はかなり緊張している。  懸命に走ったヤンくんからのバトンを受け取ると、走った。全力で回りも見ないで走る。段々とシイくんの姿が近づいて、その頼りがいのある手にバトンを渡す。 「ガンバレー!」  こんなに声を張り上げたのはいつ以来だろう。ジキル様のバンドのライブよりも燃えてた。 「見よ! このメダルを!」  四人で祝勝会を開く。私たちは勝った。学年一位のメダルを掲げるユウちゃんは誇らしそう。 「みんな速かったねー」 「ナーちゃんも頑張ったよ」 「そうだよ。あたしはナーちゃんがビリになるかなーって思ってたのに、二位に落ちただけなんて十分すぎる」 「それって悪口?」 「ヤンくん。あたしらなめんな。このくらいは愛情表現だよ」  もう私たちのグループは足の速さだけじゃなく、仲良し度でも一位になってるのかもしれない。 「正直、僕は勝てないかと思ったんだ。だけど、ナーちゃんが応援してくれたから走れたんだよ」 「ヒュー! 熱いね。お二人! ナーちゃんがあんなに叫ぶなんてあたしも驚きだい。これも愛情表現なのかな?」 「違うよ。みんなで頑張ったから負けたくないって思ったの!」 「そうなの? 僕はちょっと寂しいな」 「とにかく勝てたのは良かった」  ユウちゃんとシイくんが楽しそうに若干私をからかっている。それでもヤンくんの言葉でみんなが頷いて健闘を称える。  季節はもう寒さが強くなる頃。私たちは受験勉強に追われる。  こんな時でも一年班は活用できる。ユウちゃんは私立短大。シイくんは難関大学。ヤンくんは近所の有名大学。私はどこでも良いから国立大学。とレベルは違うけれど進学なので勉強で協力する。 「ヤン! 数学教えて。僕よりも詳しいんだから」 「シイくん。私英語苦手なんだ」 「なら、俺には現国を」 「あたしは全部平たく!」  それぞれの長所を活かして教えあう。だから灰色の勉強地獄にはならなかった。 「どうにか全員進路が定まったねー」  みんなの共闘があったからなのか浪人は居なかった。 「あたしはどこでも良かったから楽勝!」 「僕は志望校落としたよ」 「私も遠方しか受からなかった」 「俺はどうにか」  それぞれの結果だったけど、これは誰も文句は言わない。残りは卒業と言うみんなとの別れ。  一年前はユウちゃん以外知らなかった相手なのに今ではちょっと寂しい気分が有る。 「おい。告白は無しなのか?」  いつも居るけどこのネズミはどこかで有効だったことはない。 「知らないよ。そんなの」  当然私はこんなのも無視にする。 「だけど、もう見つけないとな。自分でも分かってるんじゃないのか?」  少し意味不明なことをそんな風に語るので私は首を捻る。 「言うこと有るからさ近くまで一緒に帰ろうよ」  一応会話聞かれてはないのを安心からふわり頷いてた。  声をかけたのはシイくん。ちょっと戸惑っている雰囲気がある。 「ナーちゃん。俺たち付き合わない?」  ストレートな告白。こんなことが私のもとに訪れるなんて思ってなかった。 「えっと、ちょっと。その」 「焦らないで良い。ナーちゃんの返事が聞きたい」  そう言われても焦ってしまう。どうしたら良いのだろう。言われたこと自体は嬉しい。 「僕は君が好きなんだ」  重ねてシイくんは私を真っ直ぐに見つめながら語る。  真剣な瞳がある。これはちゃんと返さないとダメだ。  私はこれまで考えたことがなかった恋について悩んだ。 「コラ! 奴は待ってるんだぞ」 「ちょっと待ってよ!」  落ち着こうとしているとネズミからの言葉があって、それに返事をするとシイくんが首を傾げている。  そのシイくんのキョトンとした表情を見てわかったことが有る。私の恋心について。ジキル様じゃない。  私は恋を見つけたんだ。  一度軽い深呼吸を挟んで目の前の彼を眺める。
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