食べられたくない山あざらしは人間に化けることにした

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 大口を開けて、その中に山あざらしを放り入れようとした。その寸前に、山あざらしが手の中からすり抜けてテーブルに落ちる。刹那、 「よっっしゃああ! 計画通り! ざまあみろ、人間め! おまえら人間は、自分と同じ人間の形したものは食えねえんだろ~!」  まぁ、オイラ達山あざらしだって共食いなんかしねえけどな! と高笑いしているのは、テーブルの上にあぐらをかいて座り込む全裸の少年。小学校高学年くらいの年ごろに見える少年は得意満面、いわゆるドヤ顔ってやつである。ミコトはきょとんと、周囲の人々は唖然とした顔で彼を見る。 「山あざらしはどこ行ったの?」  どこか呑気な調子で疑問を投げるミコトに、少年は間髪入れずに答えてみせる。 「おまえが食おうとしてたその山あざらしがオイラなのさ! 人間に食われたら人間に生まれ変われるなんつー根拠のない迷信を真に受けて、生きたまま貪り食われるなんてオイラはまっぴらごめんだぜ!」  そこで、山あざらしは自分が生き延びる為に策を講じた。山で狐を探して取り入って、人間に化ける術を教えてもらったのだ。元より山あざらしの集落で最も優れた若者であるからこそ、今年の生贄に選ばれたのだから。本気を出して考えればこれくらいは朝飯前。僅かな期間で変化の術も完璧に習得してしまった。  ところがどっこい。優秀な山あざらしの作戦が思惑通りに進んだのは、ここまでだった。  ミコトは手を伸ばし、少年のほっそりした腕を無遠慮に掴み、自分の口元まで持ってくると……。 「ぴぎゃあああーー!? いって()ぇ! 何してんだこのガっキゃあ!」 「何って、見た目が変わっても味は同じかもしんないし。食べるよ?」 「わぁあーーん! 誰か助けてー!」  ミコト本人はお構いなしでも、周りの大人達は少年の姿になった山あざらしを変わらず「食べ物」として扱うことが出来ず。ミコトから引き離して、噛みつかれたところを手当てしてくれた。山あざらしは子供じみた泣きべそをかきながら手当を受けたのだった。  長年待ち焦がれてついに順番が回ってきたというのに、取り上げられた。ミコトは不満に思うのではと心配されたが、意外にもけろりとしたもので。 「よく考えたら、せっかくあたしのために来てくれた山あざらしを『食べておしまい』にしたらもったいないかもしれないよね。食べるのはやめにするから、今日からあたしの相棒になってよ」  ミコトはうきうきと、段ボールにタオルを敷き詰めて、山あざらしのための寝床を作る。そしてその夜、自分の蚊帳の中、布団の枕元にそれを置く。
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