9人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
残暑もだんだん薄れてきて、ようやく秋になろうかという日の夜のこと。
私は小腹がすいたため、近くにあるコンビニに行き、帰り道をゆっくりと進んでいた。
空に浮かぶ黄色いまん丸な満月をぼんやりと眺めながら街灯に照らされた道を歩く。
すると突然、すぅっと月が煙のように空から消えた。
「え?」
見間違いかと瞬きをし目を擦るが、心做しか先ほどより暗くなった夜空に月の姿はない。
納得できずに首を捻って、視線を空から正面に変える。
その時、道沿いにある公園に見慣れないものがあることに気づいた。
街灯に照らされたそれは、月のように丸くて黄色く輝いている。
好奇心に駆られた私は、その月みたいなものの所に向かった。
大きさは私の上半身くらいだろうか。それには凹凸があり、それは見ようによってはうさぎが餅をついているように見える。まるで本物の月のようだ。
だが、黒いフェルトのような手足が生えていて、芝生の上で体育座りをしている姿はどちらかというと人工物めいている。
「こんばんは」
私はとりあえず挨拶をした。
喋るのかそもそも生きているのかわからなかったが、月のようなものは回転して、おそらく正面と思われる方をこちらに向ける。
「こんばんは」
頭に直接響く声で挨拶が返ってきた。
「ここで何をしているのですか?」
意思疎通が可能だと知ったため、私はさっそく質問する。ひょっとしたら、どこかの劇団の役者が、役作りのためにこんな格好をしているのかもしれない。
「虚しくなったので、空から降りてここに座っていました」
空から降りるというセリフとか、月になりきっているなぁ、と感心する。
「虚しいって、何がですか?」
最初のコメントを投稿しよう!