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22・終
都から東国へ向かう海に近い中路を、さて次はどちらへ進もうかと考える。海側もよいが師匠は山側のほうをよく歩くと言っていたから、そちらも捨てがたい。
「どちらにしてもほとんどは山道なのですから、好きなほうでよいのでは?」
「そうは言うが、日が暮れる前には寝床を決めておいたほうがいい。となると、やはり海側のほうが寺社も多いし見つけやすいか」
「本当にカラギは真面目ですねえ」
「うるさい。それに、海を見たいと言ったのはおまえだろう」
「えぇ。生まれてこの方、海を見たことがなかったので、つい」
にこりと微笑みながら言われてしまうと、やっぱり海を見せてやりたいと思ってしまう。
俺はいま、金花と一緒に師匠がいる東国を目指して旅をしている。本当なら師匠と一緒に向かうはずだったのだが、金花のことをいろいろ誤魔化すのに予想以上に手間取ってしまい半月遅れての出立となってしまった。
「うまくすれば師匠と合流できるという話だったが、これでは追いつけそうもないな」
「二人きりの旅というのも、よいじゃないですか」
「しかし、師匠は待ってくれていたのかもしれないのだぞ?」
「どうでしょうねぇ。お師匠のあの顔では、本当に待っていたかどうかわかりませんよ?」
「それは……そうかもしれないが」
別れ際に見た師匠の顔は、やけににやけていてよからぬことを考えているように見えた。となると、金花の言うとおり「のんびり行くから、どこかで合流できるといいなァ」という師匠の言葉は本音ではなかったのかもしれない。
「それに、お師匠が一緒では……こういうことができないじゃないですか」
「……ッ! お、まえ、何をする……!」
近づいてきた金花の手が、するりと俺の股を撫で上げた。さすがにそれだけで兆すことはなくなったが、それでも“金花に触れられた”というだけで体が熱を帯びてしまうため、慌てて手を掴んでやめさせる。
「ふふっ、これくらいで顔を赤くするなんて、いつまでもかわいい方」
「金花!」
いくら周囲に人がいないとは言え、こんな往来でなんてことをと睨む。しかし金花がそれに怯えることは当然ない。
(たしかに、こんなことが頻繁に起きるなら師匠と一緒でなくてよかったかもしれないが)
蔽衣山から都へ戻る道中もだったが、金花は昼夜関係なく、また外であっても欲望の赴くままに行動する。今回もはじめこそおとなしかったが、都が遠のくにつれていたずらに体に触れてくることが増えた。そうしてついには昼日中であっても藪の中や荒れ寺で交わるようになってしまった。
(これでは以前と同じではないか)
こんなことでは駄目だとわかっているのだが、金花に迫られるとどうにも拒絶できなくなる。それもこれも俺を惑わすのがいけないのであって、さらに言えば下袴を身につけていない金花にも問題があった。
いつもこれがほしいのだと言わんばかりに俺の逸物を撫で擦り、滾ったとわかればすぐさま己の袴を脱ぎ捨てる。下袴がないからすぐに白い尻たぶが見え、それを見てしまえば俺に堪えることなどできない。気がつけば木や壁板に金花を押しつけ、ぐいぐいと穿ってしまっていた。
(こんな姿を師匠に知られるわけにはいかない)
師匠の最後の笑顔を思い出すと、こういうことを予見していたような気がして頭が痛くなる。なにより師匠は金花が鬼であることを知っている。知ったうえで俺と一緒に東国へ来ないかと誘ってきたのだ。
『東は都ほど鬼を気にしていない。武士の国だからだろうが、きっと二人には過ごしやすい土地だと思うぞ?』
師匠の言葉はありがたかった。俺自身が武士たちの生活に興味があるということもあり、旅に出ることを決めた。当然母上には泣いて止められたが、ちょうど兄上の末の姫が親王に輿入れすることが決まり、母上がそちらの準備に気を取られている間に出立を決めた。
なに、ずっと東にいるわけではない。ときおり東の珍しいものでも送れば安心してくれるだろう。その後は都よりさらに西へ下ることにしているが、途中で顔を見せることもできる。
「都が心配ですか?」
わずかに身を屈めた金花が俺の顔をのぞき込むように見ている。
「いや、短い間にいろいろあったなと思い出してな」
「ふふっ、そうですね。春過ぎに出会いって一緒に都へ行き、わたしはあなたの奥方になりました。それから鬼と遭遇し、お師匠に出会い、御所へも行きました。あぁ、鬼王と再会したことには本当に驚きましたが」
「……鬼の王は、本当に都を襲わないのだろうな?」
御所での騒動のあと、金花は鬼の王が都を蹂躙することはないと断言した。金花を疑うわけではないが、これまでの鬼たちのことを思うとにわかには信じがたいのが本音だ。
「大丈夫ですよ。いまの鬼王にとって都は大事な場所でしょうから、鬼王自身が手を下すことはありません」
「それは……敦皇様と関係しているのだろうな」
「そうですねぇ。鬼を、しかも棘希食わせたと聞きましたから本気なのでしょうしね」
この話題が上るたびに複雑な気持ちになる。
鬼の王に大事な人がいると聞いたのは、金花が起き上がれるようになってしばらくしてからだった。しかも、その人というのが俺が生まれる前に鬼に攫われた敦皇親王なのだという。金花は一度敦皇様に会ったことがあるらしく、間違いないと言い切った。
「鬼を食らえば確実に鬼となります。それも棘希のような強い鬼の血肉であれば、まず失敗はない。それに……、いえ、だからこそ鬼王が本気だということがわかります。それほど大事にしている方が否と言うことをしたりはしないでしょう」
「……それはそれで複雑な気分だ」
親王が鬼の王の大事な人になったというだけでも複雑だが、なにより鬼を食らったという話にはいまでも目眩がする。聞けば、鬼を食らった人は確実に鬼に変化することができるらしい。
そうまでして手元に置きたいということは、鬼の王にとって親王が大事な人であることは間違いない。その大事な人――敦皇様が都が鬼に脅かされることを気にかけている限り、鬼の王が都を蹂躙することはないということだ。
「小鬼たちは騒ぐでしょうが、いまの陰陽寮があれば大丈夫でしょう。あの鬼を相手に雷だの火柱だのを使ったのですから、あぁ、なんと言いましたか、あの陰陽師でも問題なく対処できると思いますよ」
「光榮殿か。そうだな、あの人ならば何とかするだろうな」
鬼騒動のあと、光榮殿は御所の警備を強化し陰陽寮の面々へ指示を出したところで倒れ、二日間ほど屋敷で寝込んだと聞いている。
そんな光榮殿が目を覚ますのを待ち構えていたのが師匠で、何やらいろいろ丸め込んでくれたらしい。おかげで陰陽寮にも朝廷にも金花が鬼だと知られることはなかった。俺が鬼の王に願いを乞うたことも報告されず、こうして連れ立って旅に出ることもできた。
「師匠は何を言ったのだろうな」
「あの陰陽師にですか? 大方、役立たずだったとでも言ったのではありませんか?」
「おまえは光榮殿に厳しいなぁ」
「当然です。わたしのかわいいカラギを、あのような危ないところへ呼びつけたのですよ? 腕の一本や二本、もいでやりたいと思ったくらいです」
「頼むから物騒なことはするなよ」
「わかっています、あなたが困ることはしません。代わりに、胸の内では散々呪ってやりましたけれどね」
ニィと笑う金花に背筋がぶるりと震えたが、気づかない振りをした。
「よし、道は決まった。寝床を頼むとすれば少し急いだほうがいい。ほら、行くぞ」
「おや、結局海側の道を行くのですか? やはり、わたしが海を見たいと言ったからですか?」
「……そうだと言ったら、どうする」
俺のぶっきらぼうな返事に、またもや金花がふふっと笑った。そんな顔を見るのが恥ずかしくなり、ふぃと顔を背ける。
「照れたカラギもかわいいですよ?」
「う、うるさい」
「ふふっ、それだけわたしを好いてくれているということでしょう?」
ちろっと横目で確認した美しい顔は、今度はニィと人の悪い笑みに変わっていた。金花にそんな気持ちはないのかもしれないが、照れて仕方がない俺にはからかわれているように思えてしまう。
(くそっ、やられてばかりだと思うなよ)
まだニィと笑っている金花の細い肩を引き寄せ、思いついたことを実行しようとさらに体を寄せた。そのまま真っ白な耳に口を寄せ、息を吐くように囁く。
「今夜は覚えていろよ、キツラ」
ついでにと耳たぶを甘噛みしてやれば、掴んだままの肩がびくりと震えた。すぐ側にある黒目がほんのり潤んでいるのがわかり、してやったりとほくそ笑む。
「さぁ、行くぞ」
真っ白な頬を少しばかり桃色に染めた金花に満足した俺は、海に近い町を目指して足を踏み出した。
・
・
・
借りた寝床に高灯台はなく、夜空に浮かぶ月の光が簡素な部屋をわずかに照らしている。
ここは関白家が昔から世話をしている寺院に連なる小さな寺で、急な話だったのに一晩の寝床を借りることができた。何もないところですがという前置きどおり御帳どころか灯りもなかったが、武士まがいにあちこちの土地に行っていた俺には何も問題ない。
むしろ、この旅を始めたときに気がかりだったのは金花のことだった。鬼とはいえ蔽衣山では立派な屋敷に住み、その後も内親王であった母上が住まう屋敷にいたのだから、旅先での粗末な寝床や食事に耐えられるか気がかりだった。
ところが心配は杞憂に終わった。金花自身は野原でも岩の上でも寝られるし、食事に至っては必要ないらしい。
今夜も持ち込んだ雉の肉と前の寺で手に入れた乾飯、それにこの寺でもらった瓜で簡単な食事を済ませたのだが、金花が苦情を言うことも眉をひそめることもなかった。
そもそも金花は人のような食事をほとんどしない。瓜を少し摘んだが、その際に「喉の渇きは癒えますが、ほとんど水のように感じますねぇ」と感想を述べていたのが印象的だった。
「何を、笑っている、のですか?」
「いや、瓜を水のようだと、言っていただろう? おまえにしてみれば、血以外のものは、すべて水なのだろうなと、思って、な」
「ふふっ、そうかもしれません、ね。こうしてあなたの血を、知ってしまっては、何もかもが、水のよう、です……ぁん」
右を下に寝そべったまま血のにじむ俺の左手を大事そうに持ち、ちろちろと舌で舐めくすぐる姿を背後から眺める。俺の胸に背を預けるように寝ている姿は暗闇の中でも十分に美しかった。そう思ったからか、いたずらに尻に擦りつけていた逸物が再びむくりと頭をもたげた。
こうなっては辛抱は無理だと背後から抱きしめ、ぬかるんだ中へと逸物を突き入れた。二度注ぎ込んだ子種が逸物に押し出されたらしく、ぶちゅりと淫らな音を立てて俺の股を濡らす。さらに俺の動きに合わせるようにまろい尻が押しつけられ、ますます子種が漏れてしまった。
ようやく落ち着きはじめていたのに、これではもうしばらく寝られそうにないなと思いながら目の前にある耳にかりっと噛みつく。
「んっ! もう、あちこちに噛みついて、カラギこそ、鬼のよう、ですよ」
「それも、よいかもしれないな」
俺の返事にしばらくの間があった。
「……無理は、しなくて、よいのです。あなたが鬼を、嫌っていることは、んっ、よく知っています、から」
わずかに笑んだような気配に、胸の奥がきゅぅと痛くなる。
「俺はおまえを好いている、それは真実だ。こうして何度も交わるほど、いや、それでも足りぬほど好いているのだ……、キツラ」
「……っ!」
耳元で名を囁くと、熱く火照った白い体がびくんと震えた。
金花の本当の名を知ってからも、普段は金花と呼ぶようにしている。それは金花の願いでもあった。それが“ようま”ゆえのことだというが、それなら金花の言うとおりにしたほうがよいだろう。それに本当の名を呼んで他の鬼に居場所を知られでもしたら厄介だ。
金花は鬼とはいえ半分だけ、この前の赤い目の鬼のような強者が現れては鴉丸と俺の腕だけでは心許ない。金花を守り切れる自信がなければ、厄介ごとを引き寄せないようにするほうがよいに決まっている。
(東の地で、もっと鍛えることができれば)
師匠の誘いの言葉に乗ったのは腕を上げたい気持ちもあったからだ。金花を守れるほどの腕を身につけ、そしていずれは――。
「わたしは、あなたの側にいられれば、それで、よいのですよ」
金花の、いやキツラの声がわずかに泣いているように聞こえたのは気のせいだろうか。
俺の指を甘噛みしながら尻を押しつけ、小さくも甘い息を吐いているキツラ。額に角は見えないが、時折り指先をチクチク刺すのは小さな牙の仕業だろう。
角を持ち牙のあるキツラはたしかに鬼かもしれないが、俺にとってはただただ愛しい存在だ。その気持ちは鬼の姿を見てもまったく変わらず、何なら鬼の姿で乱れるキツラに気持ちも逸物も滾るほどだった。
俺はそういう男なのだと何度もキツラに告げている。こうして何度も何度も体に教えているというのに、いまだにキツラは自分が鬼であることを気にしているような素振りを見せた。
(いい加減、俺を信じてほしいのだがな)
もしや半分しか鬼でないことが原因なのだろうか。
赤い目の鬼は何度もキツラのことを下賤と呼び見下しているように見えた。鬼の王とは兄弟であるのに、互いに兄弟だとは思ってもいないという。もしかして、そういったことで他人を信じることができなくなっているのかもしれない。
(もしくは誰かと一緒に過ごすことに慣れていないのか)
蔽衣山の屋敷は大きく立派だったが、キツラ以外は住んでいないようだった。そういえば、長い間一人きりだったと言っていたような気がする。
(それなら俺で慣れればいい。俺の側にいたいのだと、もっと強烈に思ってくれればいい)
横向きに寝そべったまま貫いていた逸物をずるりと抜き、膝立ちになる。
キツラの尻の間からはとろとろと子種がこぼれ、床には小さな水溜りがいくつもあるのが月明かりの下でもよく見えた。それだけで俺の逸物はさらに力を増してくる。
「ふふっ、何度でも逞しくなるなんて、……あぁ、カラギの匂いがします……」
振り返ったキツラは、膝立ちの腰にそそり勃つ逸物を見てうっとりを笑んだ。そうして上半身を起こし、濡れたままの逸物に手を添える。
「んむ、ん……、ん、んちゅ、ん、んぅ」
「……ッ、キツラ、」
いままで己の中に入っていたことなど気にすることなく、キツラが逸物をしゃぶり始めた。最初は先端を口に含み、次に舌を這わせて根本から舐め上げ、最後には喉の奥まで逸物を迎え入れてしゃぶり尽くす。
さらに力を増した逸物は痛みを感じてしまうほどで、何度吐き出しても逞しくなる様子に自分でも笑いたくなった。
「キツラ、もういい。ほら、仰向けになって……そう、自分で足を持ち上げるんだ」
「カラギも、すっかりいやらしくなって」
「おまえの夫だからな。それに、奥方を喜ばせるのも俺の喜びの一つだ」
仰向けになり、膝裏に手を差し入れて自ら大きく足を開いたキツラは、股の間でニィと笑みを浮かべた。
額に小さな角を持つ顔は恐ろしくも美しく、そこから視線を下げれば尖った乳首や俺の噛み跡がうっすらと見えた。さらに下には濡れた薄い腹があり、俺のものよりずっと綺麗な色合いの逸物がふるりと震えている。さらに視線を下げると俺を咥え込むところはぽってりと赤く腫れ、ぱくぱくと呼吸をするように動いていた。
「あ、……ん、せっかくの子種が、漏れてしまいます」
中もうねっているのか、赤く膨らんだ縁をとろりとろりと子種が滴り落ち、それが床に新たな水溜りを作り出す。その様子を目にするだけで頭はカッとなり、体の熱がぶわりと上がった。気がつけばキツラの体を折り曲げるようにのしかかり、隆々とした逸物を突き入れていた。
「あ……! ぁ、は、一気に奥、まで、……あぁ、すごい、奥までみっしりと、カラギを、感じる……」
「う……ッ、く!」
「あ……ぁ、悦い……。奥に、もっと奥に、子種を……。ぁあ! そこ、そこに、もっと奥に……っ。あぁ、悦ぃ、悦すぎて、おかしく、なる……!」
「キツラ、もっと奥に、俺を奥に、ぐ……ぅッ!」
ぬるぬると、しかしきゅぅと絡みつくキツラの中を何度も擦り上げ、最後は狭くきつい路を貫いた。
奥はえも言われぬほどの心地よさで、先端をきゅうぅと絞る肉壁はキツラの喉の奥よりも凄まじかった。そこを何度か突き上げるとキツラは潤んだ黒目を細め、目尻から涙をこぼしながら悦がり狂う。
その様子をしばらく堪能したあと、ぐぅと限界まで奥を突き、またもや大量の子種を吐き出した。びゅくびゅくと吹き出す子種を感じながらも、さらに奥に注ぎ込まんと勝手に腰が動いてしまう。
「あぁ……、なんて強い、子種……。本当に、孕んでしまいそう、ですね……」
蕩けたような声での囁きにどきりとした。キツラを都に連れ帰るきっかけになったのが孕んだかもしれないという言葉だったことを思い出す。都に帰ってからいろんなことが起きたせいですっかり忘れていた。
(戯言だったのかもしれないな)
いくら鬼であっても、男が孕むなどありえないはず。それに鬼には男しかなく、子をなすには人の女を攫うしかないとキツラ自身も話していた。であれば、あれは睦言の類だったのだろう。
「たとえ偽りだったとしても、あの言葉がきっかけで側にいられるのだ。俺にとってはよい言葉に違いない」
黒髪を乱したままくたりとしたキツラは、今夜も先に気を失ってしまったようだ。さすがに意識のない相手に無体はできない。今夜はこれで終わりだ。わかっているのに、たったいま子種を吐き出した逸物はなぜか力強いままで、このまま中にいたいのだと訴え続けた。
「本当に俺は、鬼に近づいているのかもしれないな」
鬼の精を受ければ稀に鬼に転ずることがあると聞いたときは、なんと恐ろしいことだと震えたが、いまでは少し違う気持ちになる。もし鬼に精を注ぎ続けても転ずることができるのなら……。
「東へ行ったのちは、西へ行き鬼の王に会おう」
すぅすぅと寝息をたてるキツラの頬を撫で、ゆっくりと中から逸物を引き抜いた。こぽりとこぼれ出す子種に、これが実を結ぶのなら何かが変わるだろうかと愚かなことを考える。
いや、キツラの側にいるためには、子を成すよりも先に確かめねばならないことがある。そのために鬼の王に会い、話を聞かなくてはならない。
「叶うことなら、俺は鬼となり、ずっとおまえの側にありたいと思っているのだ」
叶うことなら――いや、なんとしても叶えてみせる。それがこの旅の目的でもあり、俺の願いなのだ。
「おまえが知ればき驚き……、どうするだろうな」
困惑するか、喜ぶか。もしかすると止められるかもしれない。それでも俺はキツラの側にいることを選ぶだろうし、そのためなら鬼になることも厭わない。
鬼になったあかつきにもこうできることを願いながら、キツラの紅い唇を優しく吸った。
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