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27.私の掴んだ幸せ。
「私は結婚が2回目だから、あんまり派手にしたら周りから笑われそうで⋯⋯」
この場で告白すると、白けてしまいそうな悩みを翔太に吐露した。
「亜香里ちゃんの気持ちを無視してハイテンションで進めちゃってごめんね。俺、前の結婚式の準備の時も、これが俺と亜香里ちゃんの結婚式だったら良いのにってずっと思ってた⋯⋯だから、亜香里ちゃんとの結婚式が現実になって突っ走っちゃったかも。気持ちを話してくれてありがとね」
優しく私に寄り添ってくれる彼にホッとした。
「私も、本当はこの2着とも着てみたい。お色直しもウェディングドレスでいってみようか。それから、結婚したんだから亜香里ちゃんじゃなくて、亜香里って呼び捨てにして」
私の要望に翔太がニヤリと笑った。
「じゃあ、亜香里も夫婦なんだから翔太って呼び捨てにしてね」
「もう、とっくに心の中では呼び捨てにしているよ翔太!」
くすぐったいような幸せな時間を、私は今過ごしている。
帰り際、ふと宝くじ売り場が目に入り、走馬灯のようにあの地獄の記憶が蘇った。
「翔太は宝くじって買ったことある?」
「ないけど、馬券は買ったことあるよ」
「えっと、馬券と宝くじは違うと思うけど⋯⋯」
宝くじは貧乏人に課せられる税金と言われるくらいだから、セレブ育ちの翔太には縁がないのだろう。
確かに、宝くじを買った時の私の心は不満だからけで貧しいものだった。
生涯、添い遂げようと誓った博貴に対して嫌悪感ばかり募る日々。
子供が欲しいのに一向にできず、どこかで人生を好転できないかと運に頼った。
「くじだよね。亜香里が欲しいなら買おうか」
私は宝くじ売り場に近づく、翔太の手首を慌てて掴んだ。
彼は元々大金持ちだから、当選したところで人間が変わることはない。
しかし、地獄のようなタイムリープを経験するきっかけとなった宝くじに私は恐怖を感じていた。
「まあ、当たらないだろうな。運は使い切ったし」
「え、いつ運を使い切ったの?」
「亜香里と結ばれた奇跡を呼ぶ時に、一生分の運を使ったんだよ!」
夕暮れに照らされた翔太が私に微笑みかける。
私はその屈託ない笑顔に、前回の当選金の前後賞2億円を隠している罪悪感を少し覚えた。
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