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3.再びタイムリープ。
「できるだけ生活は変えず、周囲の人にも当選の事実は伝えないことをおすすめします」
目を開けると、私はヒカリ銀行の応接室にいた。
私は確かに死んだはずなのに、明らかに宝くじを当選した28歳時点に戻っている。
(また、時が戻ったの?)
「もちろんです。絶対に、誰にも言いません」
私はまた時を戻ったようだ。
願わくば博貴と結婚する前に戻りたい。
飯島さんから頂いたワインに毒が入っていたと言うことだ。
しかし、彼が毒を入れる理由はないから博貴が入れたのだろう。
私がいなくなると経済的に行き詰まると思って絶望し殺人を強行したのかもしれない。
私はこの後、家に帰ると博貴に殺される運命を思い帰らないことにした。
離婚届など郵送で送って、サインをして貰えば問題ない。
7億円入ったのだから、贅沢ホテル生活をすれば良い。
私は区役所に向かうと離婚届をもらい、自宅に速達で郵送した。
博貴には、「もう顔を合わすのも吐き気がするから離婚して欲しい」と書いて手紙として添えた。
その後、私は大帝国ホテルに向かった。
「スイートが空いているなら、そちらでお願いします」
1泊100万円以上もするスイートは空室の日も多いのかすんなりと泊まれた。
7億円も当たったのだから、100万円なんて小銭と変わらないように感じる。
私は無駄に広いスイートのベッドに横たわってこれからのことを考えた。
スマホにひっきりなしに博貴から着信が届く。
私は彼の電話番号を着信拒否に設定した。
「飯島翔太?」
着信画面に博貴以外の名前が出る。
もしかしたら、博貴が着信拒否されているからと友人の彼に頼んで電話させたのかもしれない。
そのリスクを感じながらも私は着信に出ることにした。
飯島翔太は、信用できない人間ばかりの世の中で唯一私に安心をくれる人だった。
「亜香里ちゃん? 今日、博貴にお土産に赤ワインを渡したんだけど、もう飲んだ? 実は、前にワイナリー持つのが夢だって言ってたでしょ。そのワイン俺のワイナリーで作ったやつなんだ」
飯島さんの言葉に私は前回彼のワインで命を落としたことを思い出した。
しかし、彼が犯人なわけはない。
私は飯島さんのことだけは、なぜだか無条件に信用できた。
おそらく博貴が彼の赤ワインに毒を入れたのだろう。
この電話を受けたのは初めてだ。
あの夜は飯島さんからの着信を受けていた気がする。
でも、宝くじに当たったことに博貴と盛り上がっていてカバンに入れていたスマホの着信音に気が付かなかった。
「飯島さん。私、博貴と離婚しようと思ってます。彼が怖くて今避難してるんです」
「そっか、ずっと心配だったんだ。博貴の亜香里ちゃんへの接し方は異常だったし」
思わぬことを飯島さんから言われ私は呼吸が止まったような気がした。
私は自分が博貴から異常な対応をされていると思ったことはなかった。
ピンポーン
その時、ホテルの部屋のインターホンが鳴った。
(なんだろう、ルームサービスなんて頼んでないけど)
「あの、飯島さんちょっと待っててください」
私は電話を保留にして、部屋の扉を開けた。
グス!
瞬間、言いようのない痛みが腹部を走る。
私はナイフで刺されていた。
目の前を見るとホテルマンの帽子を目ぶかに被った男がいた。
口元がほくそ笑んでいるが、それが見慣れた博貴のもののように見える。
私はまた死んだのだろうか。
戻れるならば、博貴と結婚する前に戻りたい。
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