指輪の行方

1’

美嘉(みか)が捜し物をしている。

本棚の一角の小物置きスペース、足置きマットの裏、クローゼットに掛けてあるスカートとバッグ。
ベッドの下。
そして念の為…という感じてティッシュの箱の中も。

僕はまだ寝ているフリをしながらその様子を見ていた。

瑛士に『お腹すいたー！朝ごはんはー？』と呼ばれて捜索を中断し、寝室を出て行った。

探しているのはコレだよね？
コレじゃなかったら、じゃあなんなんだ？って感じだし…。
僕はスウェットのポケットに入れていた指輪を取り出して眺めた。

昨夜、久しぶりの会社の飲み会でいつもより酔っ払ってしまった。
帰ってきて水だけ飲んで、ササッとシャワーを浴びて美嘉より先に寝室に入った。

明日は休みだから、この前もらっておいたカメラのカタログを眺めてから寝ようと本棚から取り出したら、何かがコロンとカタログの間から落ちた。

それが美嘉の結婚指輪だった。

上の段が美嘉の小物置きになっている。
そこから落ちたのか。
美嘉が来たら落ちてたよ、と渡そう…と思ったところでハッとした。

今日、僕も仕事中に結婚指輪を外したんだ。
あれ？どこに入れたっけ？…
ズボンのポケットだっけ？…

寝室を出て、洗濯カゴに入れたズボンのポケットを探っても指輪は無かった。
瑛士の部屋の様子を見に行っていた美嘉が出てきて『どうしたの？』と言われたが、咄嗟に『トイレだよ』と答えてトイレに逃げてしまった。

ズボンじゃなかったら、どこだ？
落としたような覚えも無い。

だんだん酔いが覚めてきた。
疾しいことはしてないけど、たまたま飲み会の日に指輪が無いなんて、余計な誤解をさせたくない。
大事なものは絶対に無くさない。
鞄のポケットか財布かもしれない。
指輪を返したら、僕の指輪が無いことが話しになるだろう。
明日、自分のを探してから渡すか。

そっと棚に置いておけばいいんだけど、だんだん《そもそもなんで美嘉は指輪を外した？》という思いが湧き上がってきていた。