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正博が起きる前と朝食の片付けをした後も探してみたけれど…見つからなかった。
家の中にあるのは間違いないのに。
ああっ、もう!
ずっとモンモンとしているのは性に合わない。
正博の指輪のこと私の指輪のこと、早いうちに話しをしてしまおう。
そう決めたら決めたで正博と瑛士が遊んでいるのを眺めながら、この幸せが壊れたら嫌だなぁ…などと考えて、また涙が滲んだ。
その時、玄関のインターホンが鳴って同じマンションの瑛士のお友達が画面に写った。
『うちで遊ぼー!』とママと一緒に誘いにきてくれたのだ。
私はよろしくお願いしますと見送り、玄関の鍵を閉めた。
今しかないわ…。
リビングのソファーに座る正博の隣に行って、深呼吸してから話し掛けた。
『あのね、昨日陶芸教室に行く前に結婚指輪を外して、小物置きの棚に置いたのになくなっちゃったの。
ごめんなさい。
それでね…正博も指輪しないで帰ってきたよね。
昨日の夜、脱衣所に落ちていたのを拾ったの。』
ここまで一気にしゃべり、スカートのポケットから指輪を取り出して正博に渡した。
そう、昨夜正博がシャワーを浴びている時に着替えを届けにいって、脱衣所の床に落ちていたのを見つけたのだ。
たぶんトイレだと言ってた時、気付いて脱衣所に探しに来たんだよね。
だけど自分の指輪が見つかってなかったから、正博に渡す気になれなかった。
『正博はどうして指輪を外したの?』
口を半開きにして聞いていた正博が、デニムのポケットから取り出したものを私の手の平を開かせ、置いた。
『僕も昨日の夜、寝室で拾ったよ。
すぐに渡さなくてごめん。』
『見つけてくれたの!
ありがとう!
ほっとしたー…。』
私のわがまま三昧にオーダーさせてもらった結婚指輪。
戻ってきてよかった…。
『昨日はさ』
正博が膝に乗せた手を組んで、話し始めた。
色白で長い指がもじもじしている。
何を言われるのかな…。
覚悟はしたつもりだけどお腹が痛くなる。
『10月から技術部に異動になるんで、午後、相模原の製作所に挨拶に行ったんだ。
試作品を触らせてもらう時に、手袋はするけどカチカチとぶつかりそうなのが気になって外したんだよ。
会社に戻ってすぐ飲み会になって…うっかりしていた。
ごめん。』
……ああ、そういうことか…。
真面目な正博のやりそうなこと。
金属製品を触るのに、手袋するだけじゃ心配だったのね。
嘘はついていないと思う。
『泣くほどだった?
ごめんてば…。』
そう言われて、涙がポロポロ落ちたことに気が付いた。
『指輪外したことなんて初めてだったし、飲み会だっていって帰ってくるの遅かったし…。
なんか私のこととか家のこととか嫌になったのかなって悪い想像が止まらなかった。』
早口で言ってしまってから、正博の首に抱きついた。
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