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『ねえ、指輪はめて。』 そう言われて腕を離し、手を取って左手の薬指にはめた。 はめられた指輪を見てはにかみ、そして僕の顔を見てニッコリ笑う。 そして結婚行進曲を鼻歌にしながら僕にも指輪をはめてくれた。 こんな君と結婚できて僕は本当に幸せだ。 声に出して言わないと。 『陶芸教室に行ってみたら指輪はあまり関係なかったから、もう外さないわ。 でも正博は技術部に戻れたなら、また外す時があるよね。』 僕の手を取って、ぶんぶん振る。 言いにくいことを言うときの癖だ。 目を離したらハンバーグ焦げちゃったとか、瑛士を怒りすぎちゃったとか。 たまらなく可愛い。 『そういう時はネックレスに通して欲しいの。 ネックレスしたことないから、嫌かもしれないけど。』 そんなことか。 《2度と外さないで》などと言わないのが美嘉らしい。 いつも僕の事を理解しようとしてくれる。 それでもう君が泣かないのなら、するに決まってる。 『それいいね。これからはそうしよう。』 『ほんと?いいの? じゃあ瑛士が帰ってきたら買いに行こうね! 出掛ける支度してくるね!』 ソファーから立ち上がって部屋に行きかけて、また戻ってきた。 『技術部に戻れて良かったね。 また設計して製作したいって言ってたもんね。 その製作所ってコロナ前は作業体験会とかやってたよね? 再開してるかな? 私、金属加工やってみたい!』 『今度聞いておくよ。』 『うん、ありがとう!』 目がキラキラしている。 金属加工体験も一緒にできたら楽しいだろうね。 やっぱり顔を見られるのは恥ずかしくて、美嘉の後ろ姿に言う。 『僕は君と結婚できて本当に幸せだ。』 部屋に向かっていた美嘉が振り向いて『私もよ。』と笑った。 一度失った指輪は、大事なことを連れて戻ってきてくれた。
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