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4
『ねえ、指輪はめて。』
そう言われて腕を離し、手を取って左手の薬指にはめた。
はめられた指輪を見てはにかみ、そして僕の顔を見てニッコリ笑う。
そして結婚行進曲を鼻歌にしながら僕にも指輪をはめてくれた。
こんな君と結婚できて僕は本当に幸せだ。
声に出して言わないと。
『陶芸教室に行ってみたら指輪はあまり関係なかったから、もう外さないわ。
でも正博は技術部に戻れたなら、また外す時があるよね。』
僕の手を取って、ぶんぶん振る。
言いにくいことを言うときの癖だ。
目を離したらハンバーグ焦げちゃったとか、瑛士を怒りすぎちゃったとか。
たまらなく可愛い。
『そういう時はネックレスに通して欲しいの。
ネックレスしたことないから、嫌かもしれないけど。』
そんなことか。
《2度と外さないで》などと言わないのが美嘉らしい。
いつも僕の事を理解しようとしてくれる。
それでもう君が泣かないのなら、するに決まってる。
『それいいね。これからはそうしよう。』
『ほんと?いいの?
じゃあ瑛士が帰ってきたら買いに行こうね!
出掛ける支度してくるね!』
ソファーから立ち上がって部屋に行きかけて、また戻ってきた。
『技術部に戻れて良かったね。
また設計して製作したいって言ってたもんね。
その製作所ってコロナ前は作業体験会とかやってたよね?
再開してるかな?
私、金属加工やってみたい!』
『今度聞いておくよ。』
『うん、ありがとう!』
目がキラキラしている。
金属加工体験も一緒にできたら楽しいだろうね。
やっぱり顔を見られるのは恥ずかしくて、美嘉の後ろ姿に言う。
『僕は君と結婚できて本当に幸せだ。』
部屋に向かっていた美嘉が振り向いて『私もよ。』と笑った。
一度失った指輪は、大事なことを連れて戻ってきてくれた。
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