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第四十七話 嘘
朝方になると、沙希は一人地下で竹刀の素振りをしていた。
時計の秒針が規則正しく刻む中、沙希は今夜に実行する不安を紛らわすように、祐介から教わった剣術を繰り返している。
「…………」
一通りの素振りを終えると、沙希は壁に寄り掛かって休憩を取る。
肌に伝う汗をタオルで拭きながら、沙希は昨日言った風夜の言葉を思い出していた。
『俺を拾ったこと、後悔してねぇか……?』
風夜は何を思って、あの言葉を口にしたのか沙希にはわからなかった。
(結局何も言えなかったな……)
昨夜、公園から帰って来た沙希と風夜はそのまま何も言わず、部屋に戻ったのだ。
会話を必要最低限しかしない二人からしていつも通りに思えるが、変化は確実にあった。
それは、中途半端しかできなかった会話での気まずい雰囲気や、様子が明らかにおかしく、それを隠している風夜。
当たり前だったものが少しずつ変わっていく感覚が沙希の中で起き始めていた。
✿ ✿ ✿
自主稽古でかいた汗をシャワーで流した後、沙希は自分の個室に向かっていた。
「あ……」
二階に上がると、個室から出て来た風夜と出くわす。
「はよ……」
眠たげな顔をした風夜が言う。
「おはよう。あ、風夜の朝食、キッチンにラップして置いてあるから」
「そっか……」
それだけ言うと、風夜は沙希と入れ替わるように一階へ下りて行った。
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