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(風夜にはああ言ったけど……やっぱり、ちゃんと聞いた方がいいよね……)
沙希は何とかして風夜と会話をしようとタイミングを計っていた。
しかし、風夜から見えない壁みたいなものを感じ、全く隙がなかった。
例え話すことができても、風夜の口から拒絶の言葉が出て来る気がして、沙希は向き合える自信がなかった。
話したいけど話せない。
そう言った矛盾思考の繰り返しだった。
気づかぬうちに、沙希と風夜の間で亀裂が生じ始めていた。
✿ ✿ ✿
祐介が運転する車の中で、助手席にいる陽向はぼんやりと窓の外を眺めている。
二人は例の廃病院の見取り図を署で調べ終え、沙希たちが待つ南雲宅へ向かう途中だった。
「…………」
祐介はちらりと陽向の横顔を見やる。
決行の日だからなのか、陽向は車に乗ってから口数が少なく、窓の景色を眺めていたのだ。
いつも太陽のような眩しい笑顔をする彼が大人しいことに、祐介は何だか落ち着かない様子だった。
「陽向」
祐介が名を呼ぶと、遅れてハッと顔を上げた陽向は運転席の方を向く。
「何? ユウ」
「すぐ近くにアイス屋があるんだ。休憩がてら食べに行こうか。俺の奢りだ」
「ホント! やったぁ!」
陽向はパッと大きな目をキラキラと輝かせた。
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