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その五 何が何でも金の李を手に入れたい人が、李畑にやってきました!
「兄上、お気を悪くなさったのなら謝ります。申し訳ありません。内緒にしているつもりはなかったのですが――」
「父上が勇仁から買い取った金の李の種を、わたしが県令様に差し上げたことは、おまえも知っておろう。県令様は、たいそうお気に召して、もし再びこれが手に入ったなら、是非、刺史様に献上するようにとおっしゃっていたのだ! それなのにおまえときたら――。それほどまでにおまえは、わたしの栄達を阻みたいのか?!」
「そ、そのようなつもりは――」
ああ、この人は、友德様のお兄さんなのね。納得。いかにも大地主のご子息っぽいもの! こんなに私兵を引き連れてきて、いったい金の李をどうしようというのかしら?
「久しぶりに邸にもどってみれば、金の李を採ろうとして、また誰かが崖から落ちたらしいと下働きの者たちが噂していた。ひと月前には、李が実をつけていたというではないか! なぜ、父上やわたしに知らせなかったのだ!? 惜しまず金を使って、早く収穫すべきであった。そうすれば、崖から落ちるような者を出さずにすんだはずだ」
「そ、それは、確かに――」
「李畑の管理はおまえに任せてきたが、金の李は別だ。わたしの方でなんとかする。そのために、今日は我が家の兵を連れてきた。まずは、弓の名手といわれる者に、射落とさせてみよう。
難しいようなら、崖の上から岩棚へ綱で人を下ろしてみるつもりだ。とにかく、今日中に金の李を持って帰る。おまえも手伝うのだぞ、よいな!」
「は、はい……」
勝手なものね! 小作人や李畑の管理は、友德様に任せっぱなしで里にも寄りつかない人が、金の李だけは自分のものにしたがるなんて!
こんな人は、金の李に誑かされて泣きを見ればいいんだわ!
彼が、しくじって悔しがる姿を思い浮かべ、つい、忍び笑いを漏らしてしまった。
「ん? な、何ものだ、おまえは? いつからそこにいた! 何を笑っている!?」
ようやく、友德様の隣にいるわたしに気づいた彼は、今度は暴言の矛先をわたしに向けてきた。あーあ……、目をつけられちゃったかしら?!
わたしは、急いで悲しげな顔をして、小娘らしく気恥ずかしそうにうつむいた。
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