44人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふん! 今さら殊勝な顔をしても遅いぞ! わたしを馬鹿にして笑っていただろう!? 怪しげな娘だ。その姿、どうやら旅の物売りのようだが、おまえは――」
「兄上、お止めください!」
伸ばされた手からわたしを庇うように、友德さんが両腕を広げて前に出てくれた。
「この人は、深緑さんといって、霊験あらたかな薬水を売りながら、旅をしていらっしゃる方です。静帆がたちの悪い風邪をひいたようなので、薬水を分けてもらいました。ついでに、薬水で作物が元気にならないかと思い、李畑を見てもらっていたのです」
薬水で、畑の作物を元気にする?
慌てておかしな言いわけをしているだけのようにも聞こえるけれど、それって案外いい考えかもしれない。畑の作物にだって、気は流れているはずだ。それならば――。
「何!? 静帆が風邪をひいた!? それはいかん! 医師にはみせたのか?」
「この深緑さんの薬水のおかげで、静帆は、咳も治まりすっかり良くなりました」
「そ、そうか……。こ、これは、失礼した。わたしは、友德の兄で、文偉強と申す。深緑とやら、静帆の件、わたしからも感謝する……」
あら、偉強様ったら、お顔に紅葉を散らしていらっしゃる。
ちょっと、もごもごしたりして――。ふーん、ひょっとしてこの人は、静帆さんのことを――。
偉強様は、明後日の方を見ながら、二つ三つ咳払いをすると、先ほどまでの変な威厳を取り戻し、大きな声で兵たちに命じた。
「と、とにかく、金の李を早急に射落とさねばならん。弓の用意ができたら、金の李を狙いやすい場所をおのおの探してみよ!」
「ははっ」
四名の兵士が、それぞれ岩棚からの距離を目測しながら、金の李に射掛けやすい場所を探し始めた。
岩棚を見上げると、金の李が葉を押し分けるようにして、その姿を衆目にさらしていた。
日差しを受けていっそう明るく輝く金の李は、「射落とすことができるならば、射落としてみよ!」と、兵士たちを挑発しているかのようだった。
やがて、兵士たちは、それぞれ場所を決め、矢を射る準備を整えた。
「よし! 順番に放て!」
偉強様の号令で、一番離れたところに立つ兵士から矢を放ち始めた。
名手というだけあって、どの兵士も李の木を大きく外すことはなかった。
葉を落としたり、細い枝をかすめたりした矢もあった。
しかし、残念ながら、全員が五本ずつ放ち終わっても、金の李を射落とすどころか、揺らすことすらできなかった。
最初のコメントを投稿しよう!