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その六 思阿さんの出世を邪魔するつもりはありません! でもね……。
―― ズンッ!
「おおーっ!!」
矢は、見事に金の李が下がる小枝に命中した。
李は、空中に差し出されるように枝から離れ、崖から転がり落ちてきた。
近くにいた兵士が、慌てて崖下に駆け寄り、地面から李を拾い上げた。
「は、早く、早くこれへ!」
偉強様が、待ちきれない様子で柵から手を伸ばし、金の李を受け取った。
両手で優しく李を包み、偉強様は、矯めつ眇めつ眺めていたが、何を思ったか、突然、李にかぶりついてしまった。
「兄上―!!」
「偉強様―!!」
皆が驚きの声を上げる中、偉強様は金の李から顔を離すと、満足そうに微笑んで言った。
「見ろ! あったぞ!」
彼は、果肉を半分近くかじりとった金の李を高く掲げ、わたしたちに見せた。
果肉の奥に、きらきらと光り輝くものが埋まっていた。
黄金の種だ!
感動と驚愕が入り交じった兵士たちの顔を嬉しそうに見回した後、偉強様は、取り出した手巾で大事そうに金の李を包み懐にしまった。
そして、李畑へ戻ってきた思阿さんに言った。
「思阿……と申したかな? いや、たいした腕前だ。感服した。もし、おぬしが望むなら、我が家の私兵としてすぐにでも雇おう。私兵団の副団長でどうだろう? 家を用意してやるし、給金もはずむぞ! わたしは、明日まで邸にいるので訪ねてきてくれ。父上にも話を通しておく。
では、皆、邸へ戻るぞ! まったく、旅の武芸者にも叶わぬとは、おまえたち、鍛錬が足りぬようだな! 戻ったら、すぐに弓と剣の稽古だ! 急げ!」
「ははっ!」
兵士たちは、手早く帰り支度を整えると、次々と馬に跨がり、偉強様の馬車と共に李畑から去っていった。友德様と思阿さんとわたしは、挨拶することすら忘れて、慌ただしく出発する彼らを見送った。
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