その六 思阿さんの出世を邪魔するつもりはありません! でもね……。

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 いつの間にか友德様とわたしの間に、割り込むようにして(?)立っていた思阿さんが、わたしの方へ振り向いた。 「深緑(シェンリュ)さん、遅くなってすみませんでした。ご老人のお宅で歓待を受けまして、ついつい――」 「また、底知らずぶりを発揮してしまったんですね……」 「はい……。志勇から事情を聞き、呂老師の元を尋ねたところ、ちょうど偉強様の一行が李畑に向かおうとしていたので、何か俺にできることがあるかもしれないと思い後を追ってきました。ご心配をかけて、すみませんでした」 「心配なんてしてませんよ! さっきまで大酒を飲んでいたくせに、ひょいっと現れて一矢で金の李を射落としてしまうような人のことは! 勝手に(ウェン)家の私兵にでも何にでもなればいいんです!」  なんだか、思阿さんのことがとても腹立たしかった。  わたしを置いて、ご老人の家に行ってお酒を楽しんだあげく、戻ってきたと思ったら大活躍して――。  本当は、文家の私兵が誰一人できなかったことを思阿さんがやってのけて、とても誇らしくて嬉しいはずなのに――。  思阿さんは、少し戸惑った様子で、わたしを見つめながら言った。 「俺は、私兵になどなりませんよ。深緑さんをきちんとお姉さんの所へ送り届けるまで、途中で用心棒の仕事を投げ出したりしません。きちんと、燕紅(ヤンホン)様との約束を守ります」 「本当ですか? 偉強様は、とんでもない好条件で思阿さんを雇ってくれるみたいですよ。こんなにいいお誘いは、二度とないかもしれません。お断りして、後悔しませんか?」 「後悔なんかしません。俺が用心棒を辞めるのは、深緑さんが、もう俺を必要ないと思ったときです。そのときが来るまでは、俺はずっとあなたのそばにいますから――」  えっ?……、当たり前のことを言われただけなのに……、ドキドキしてきた。大地主から、私兵団の副団長に望まれるような人が、わたしのそばにいてくれるというのだ。  わたしが彼を必要としなくなるまで、ずっと――。 「えーっと、よろしいですか、お二人とも――。」 「あっ、……は、はい!」  ちょっと申し訳なさそうな顔をして、友德様が声をかけてきた。  存在を忘れていたわけではないけれど、何となく友德様を無視してしまっていたわ……。ごめんなさい!
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