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三人とも照れ笑いを浮かべ黙ってしまった。でも、この沈黙は気まずい。
わたしは急いで、気になっていたことを友德様に尋ねてみた。
「あの、思阿さんが、金の李を射落としてしまいましたけど、良かったのでしょうか? 偉強様は、たいそう喜んでいましたけれど、あれには、あまり関わらない方がいいのかなと思っていたものですから」
「射落としていただいて、感謝しています。兄は、どうしても金の李を手に入れるつもりでここへ来たようでした。もし、射落とせなければ、崖の上から籠で人を下ろしたり、足場を組んで人を上らせたりすることになったでしょう。
そうなれば、また、死人や怪我人が出たかもしれません。思阿さんのおかげで、そうならずにすんだのです。ありがとうございました」
そう言って、友德様は、わたしたちに頭を下げた。
これでしばらくの間は、誰かが金の李に惑わされ、無茶をすることもないだろう。
だが、いつかまた蕾がつき花が咲く。そして、新たな金の李がなる――。
そうなる前に、あの李の木を始末するのが、わたしの役目なのだけど……。
思わず小さな溜息をつくと、友德様が明るい声をかけてきた。
「よろしければ、今夜は、呂老師の家にお泊まりになりませんか? 以前は、もっと書生がたくさんいたこともあるので、離れの部屋もあります。わたしも泊まるつもりですので、一緒に晩餐でもいかがですか? 昭羽は、なかなか料理上手なのですよ」
「ありがたいお話ですけれど、そんなこと、勝手に友德様が決めてしまってもいいのですか? 呂老師が、お許しくださらないかもしれませんよね?」
「それは、大丈夫です」
えっ? 大丈夫? どういうことかしら? そう言えば友德様と呂老師って――。
友德様が、愉快そうに笑いながら、わたしに理由を教えてくれた。
「呂老師は、わたしの祖父です。わたしの母は、呂老師の娘なのですよ」
◇ ◇ ◇
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