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わたしたちが、呂老師の家に戻ったときには、忠良さんは、すでに自分の家に帰った後だった。
念のため迎えに来た近所の人が、荷車にわらを敷き、忠良さんを乗せていったそうだが、荷車には自分で歩いていって乗ったそうだ。薬水の効き目に改めて驚かされたと、呂老師は言った。
楽しい晩餐だった。
川魚の揚げ料理や瓜の炒め物、干した貝で風味をつけた麺料理など、昭羽の作ったものは、どれもおいしかった。
書生などしているより、県城の大きな料理屋や酒楼などで、料理人の修業をした方がいいのではないかと思うほどだった。
食事が終わり片付けも済むと、昭羽が、思阿さんとわたしを離れに案内してくれた。
「一部屋だけは、いつでも使えるように掃除をしてあるのですが、残りの二部屋は手を入れていません。一つの部屋をお二人で使っていただけますか?」
「それは、かまいませんけど――」
「良かった! 部屋には、寝台は一台しかないのですが、長椅子があります。枕や上掛けも置いてあるので、上手く使ってください。では、ゆっくりお休みください」
昭羽は、あいさつをして、家の方へ戻っていった。
扉を開けて中に入り、持ってきた手燭を卓の上に置いた。
こざっぱりとした部屋だった。寝台や長椅子には、清潔な寝具が用意されていた。
「あのう、わりと大きな長椅子ですけど、思阿さんにはきっと窮屈ですよね? わたしが長椅子で寝ますから、寝台は思阿さんが使って――、えっ、えぇーっ?!」
てっきり、後ろに思阿さんがいるものと思って振り向いたら、影も形もなかった……。
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