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その七 わたしが岩棚へ上る方法は、これしかありません……たぶん!
急いで外へ出てみると、思阿さんは、扉の外に座っていた。
「どうして、中へ入らないんですか?」
「俺は、用心棒ですから、ここで一晩中番をしています。深緑さんは、安心してやすんでください」
旅の間には、一つ部屋に二人で泊まらなければならないこともあった。
そういうとき思阿さんは、いつもわたしに寝台を譲ってくれて、自分は椅子や床で寝ていた。でも、部屋の外で寝るなんてことはなかったのよね――。
やっぱり、まだ、さっきのことを怒っているんだろうか?
「ごめんなさい、思阿さん。用心棒としてちゃんと務めを果たそうとしてくれているのに、何だか意地悪なことを言ってしまいました。嫌な気持ちにさせてしまいましたよね。すみませんでした」
隣にしゃがみ込んで、わたしが謝ると、思阿さんは小さく首を振って明るい声で言った。
「俺の方こそ、すみませんでした。途中で役目を放り出すかもしれないと思われていたなんて、用心棒失格ですよね。酒の誘惑には気をつけます。そして、もっと深緑さんに信頼してもらえるように頑張ります。だから、今夜はここでしっかり見張りをさせてください」
「思阿さん……」
やっぱり、思阿さんはいい人だわ!
用心棒が、あなたで良かったです!
これからも、あなたと一緒に旅を続けたい! そんな気持ちを伝えたいのだけど――。
雅文が、何か言っていたわよね?
手に触れる? 軽く縋りつく? 頭をなでる? 今は、どれが正解なんだろう?
「えっ? シェ、深緑さん?……、うわぁっ! あっ……、へぇっ!?……」
とりあえず、言われたことは一通り全部やってみた。ちょっと足りない気もしたから、最後に「頬ずりする」もつけてみた。
これで、わたしの感謝の気持ちは、思阿さんに伝わったかしら――。
「おやすみなさい!」
わたしは、すっかり満足して、扉を開け部屋に戻った。
ちょっとだけ間を置いて、思阿さんが小さなかすれ声で、「おやすみなさい」と言うのが聞こえた。
◇ ◇ ◇
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