その一 おやおや、早くも薬水の出番のようですね?

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 興味津々という顔でこちらを見ている志勇に、ますます決まり悪そうに体を縮こまらせて思阿さんが答えた。 「俺は、まだ修業中の詩人だ。諸州を巡って、詩作について学んでいる身なんだよ。まあ、今は、こちらの深緑(シェンリュ)さんの用心棒が本業だけどね」 「へぇ? じゃあ、そっちのお姉さんは、用心棒を雇えるようなお金持ちってわけかい?」 「そんなことありません! ご縁のあったあるお金持ちが、用心棒代を出して思阿さんを雇ってくださいました。わたしは、しがない旅の薬水売りです」 「薬水売り? 本当かい!? 咳がおさまる薬水も持っているかい!?」  聞けば、志勇の姉は、一昨日から咳が止まらなくて苦しんでいるという。  層林には、医師はいないので、古老に分けてもらった煎じ薬を呑ませて様子を見ているそうだ。 「姉さんは、働き過ぎなんだよ。今日は休めって言ったんだ。でも、咳をこらえながら、地主の(ウェン)様のところの畑の草取りに行ったよ。途中で倒れたりしてないか、おいら心配でさ――」 「わたしの薬水は、体の気の巡りを整えるものです。咳にも疲れにも効くと思いますよ」 「本当に!? だったら船賃はいらないから、うちの姉さんに薬水を分けておくれよ!」 「わかりました。里に着いたら、すぐにお姉さんのところへ行きましょう」  またまた、薬水の効能を示す機会が、向こうから転がってきた。  志勇の姉の咳を止めてやることができれば、薬水売りとして里人からも認められる。  そうすれば、層林の里にも滞在しやすくなって、務めを果たすことも容易になるに違いない。まさに、好機到来ね! 「志勇、良かったな。俺は、深緑さんの薬水で病や怪我を治った人をたくさん見てきた。薬水を飲めば、姉さんの具合もじきに良くなるよ!」 「そうなのかい? 深緑さん、よろしく頼みます」    志勇が、わたしに向かってお辞儀をした。  ありがとうございます、思阿さん! あなたの一言で、旅の小娘の信用度が高まりました!  これは、何としても、志勇の姉さんを快癒水で元気にしてやらなくてはね!  小舟は、さらに枝分かれした細い水路に入っていった。  同じような小舟が、二艘だけもやってある小さな船着き場が見えてきた。  岸には男の人が一人立っていて、こちらに手を振っていた。
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