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「あっ、友德様だ! なんで、あんなところにいるんだろう? ……姉さんに何かあったのかな?」
志勇は、懸命に艪を漕ぎ、舟を岸に近づけた。
思阿さんが、綱を岸に投げると、岸にいた男の人がそれを受け取り、舟を船着き場へ引き寄せた。
「志勇、大変です! 静帆が、畑で倒れました! 今さっき家に運び、煎じ薬を飲ませて休ませました。里人から、そろそろ戻ってくる頃だと聞いたので、おまえを呼びに来たのです。荷物は、わたしが何とかしますから、ともかくおまえは早く家に帰って静帆を看てやりなさい! 煎じ薬が効かないようなら、近郷の医師を呼びましょう!」
「は、はい! あ、ありがとうございます、友德様!」
「うむ。急ぎなさい!」
ものすごい勢いで、志勇は里の入り口に向かって走り出した。
思阿さんとわたしは、船に積まれていた荷物を男の人と一緒に岸に上げた。
男の人は、志勇が用意しておいたらしい荷車に、荷物を全部積み込んだ。
彼は、船から降りたわたしたちをそこに残し、荷車を引いて里へ戻ってしまいそうだったので、わたしは慌てて声をかけた。
「えぇっと……、友德様……でしたっけ? あの、わたしは、旅の薬水売りで深緑と申します。こちらは、わたしの連れの思阿さんです。静帆さんというのは、志勇のお姉さんですよね? わたし、さっき志勇と、具合の良くないお姉さんに薬水を分けてあげる約束をしたんです。良ければ志勇の家まで、案内していただけませんか?」
「旅の薬水売り? それは、まことですか?」
「えっ、……あっ、は、はい……、えっ、きゃあ!」
友德様は、わたしをひょいっと抱え上げると、どさっと荷車の上に下ろした。
「お連れの方、思阿さんと申されましたか? ……後ろから荷車を押してください! 荷物と一緒に深緑さんも、姉弟の家まで運ぶことにしましょう。さあ、行きますよ!」
友德様は、ぐいぐい荷車を引っ張る。負けじと、思阿さんがぐいぐい荷車を押す。
土埃を立てながら、信じられないような速さで、荷車は里の門へ向かって進んでいく。
あのう……、ちょっと、そのう……、おしりがとっても痛いんですけどおー!
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