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「驚きました! この里には、医師がいないので、医師がいる近くの郷へ使いを出そうと思っていたのですが、もう、その必要はなさそうですね。
それにしても、素晴らしい薬水です。さぞかし高名な薬師が、処方されたものなのでしょうね? それとも深緑さん、あなたご自身が薬師なのですか?」
高名な薬師? それどころじゃありません! これは、医薬と生命の女神である紅姫様が、手ずから処方された神秘の薬水です――、とはさすがに言えないわよね。
「これは、ある薬師様が、紅姫様のお告げをもとに処方した薬水です。わたしは、諸州を旅して、様々な傷病でお困りの方に、女神様のご加護をお分けしているにすぎません」
「そうですか。それは、素晴らしいお仕事です。志勇が、あなたと出会えたことも、きっと女神様のご加護でありましょう。志勇は、姉思いの働き者ですから――」
志勇の家の外に出ると、運んできた荷物を引き取りに、大勢の人が集まってきていた。
友德様の姿を見ると、皆一様に礼をしてかしこまっている。
志勇から預かったらしい割り符を確認しながら、友德様は人々に荷物を引き取らせていた。わたしは、荷台から荷物を下ろす人々を手伝った。
思阿さんは、親戚から酒甕が届いたというご老人が、重くて運べず難儀をしていたので、「俺が運びましょう!」と言うと、酒甕を抱えてご老人について行ってしまった。
親切なのはいい。しかし、あれは、たぶん、しばらく戻ってこないだろう……、と思う……。
どの里人も、友德様にたいそう感謝して荷物を受け取っていた。
友德様は、いったいどういう立場の人なのかしら?
「あ、あの、友德様は、どのようなご身分のお方なのですか?」
「ああ、きちんと名乗るのを忘れておりましたね。これは、失礼をいたしました。
わたしは、文國強の息子で、文友德と申します。この里の周りの土地は父のもので、里の人々の多くは父の田畑の小作です。わたしは、父の土地や里の管理を手伝っています。この里には、わたしの祖父が住んでいますので、皆、顔見知りばかりです。
今日は、うちの李畑の世話をする日で、静帆も手伝いに来てくれていたのですが、このようなことになり、わたしが家まで運んできました」
顔見知りとはいえ、大地主のご子息が、里の小作の娘を自ら家まで運ぶなんて親切すぎやしないだろうか?
見た感じは、穏やかそうな若者だし里人からも慕われているようだけど、妙な下心を抱いていないとも限らない。さっきは、いきなり断りもなくわたしのことを抱き上げたし――。
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