44人が本棚に入れています
本棚に追加
「友德様―っ! 大変でございますーっ!」
里の奥の方から、大慌てで若い男の人が走ってきた。
その姿を認めた友德様が、急いでそちらに駆け寄った。
「どうしたのですか、暮白!?」
「今度は、忠良が、岩棚から落ちました! 呂老師のお宅に運び込みましたが、右足の骨を砕いたようで――」
「またですか!? あれほど、岩棚へは上るなと釘を刺しておいたのに!」
友德様が、悔しそうに顔を歪めた。
えっ? 岩棚から落ちて右足の骨を砕いた? それって、もしかして――。
暮白さんが、息を弾ませながら懸命に状況の説明を始めた。
「李畑の世話をしていて、偶然金の李が目に入ってしまったようです。目にすれば、もう、あれの誘惑には勝てませぬ。忠良は、三人目の子どもが生まれたばかりですし――」
「愚かなことを! 片足になって、どうやって子どもたちを養っていくのです! 申し訳ないが、暮白は、馬でも借りてこのまま近郷の陳医師の所へ行ってください。わたしの名前を出して、すぐに来ていただくよう、お願いしてきてください」
「承知いたしました、では!」
暮白さんは、友德様にあいさつをすると、馬を借りに里の奥へ戻っていった。
わたしは、頭を抱え大きな溜息をつく友德様の衣の袖を、つんつんつんと引っ張った。
険しい顔で振り向いた友德様に、背中の行李を指さしながらわたしは言った。
「友德様、忠良さんのところへわたしを連れて行ってくださいませんか? きっと、お役に立てると思います」
友德様は、一瞬、不思議そうな顔でわたしを見たが、すぐに思い当たったようで、「ああ」とつぶやくと家の中の志勇に声をかけた。
「志勇! 深緑さんと一緒に、呂老師の家に行ってきます。もし、思阿さんが戻っていらしたら、呂老師の家を教えてあげてください」
「はい、わかりました!」
家の中から、志勇の元気な応えがあった。
それを聞くや、友德様がわたしの方へ手を伸ばしてきた。
すぐそばには、空になった荷車……。ま、まさか……。
「深緑さん、さあ、急ぎましょう!」
えーっ!? また、わたしを積み込もうとしてますう!?
もう、荷車はたくさんです!
わたしは、友德様の手をすり抜け、ピョンピョンと跳びはねて言った。
「見てください、友德様! わたし、こう見えて、けっこう足が速いんですよ! 呂老師の家はどこですか?」
「こ、この道の突き当たりを、右に曲がったところですが――。ちょ、ちょっと、深緑さん!」
わたしは、友德様を置き去りにし、脱兎の勢いで駆け出した。
忠良さん、待っててください! あなたの右足は、わたしの快癒水できっと治してみせますからね!
最初のコメントを投稿しよう!