その三 頑張りましたよ! ……その結果、寝てしまいました!

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「う、うう……、……あ、ああぁ……」  忠良さんの体から力が抜け、呻き声が静かな溜息に変わった。  きらきらした靄のようなものが、口からだけでなく体中の傷口と思われる場所からも溢れ、忠良さんの全身を覆った。  それは、天蚕の繭のように優しく光りながら、傷ついた体を幾重にも包んだ。 「老師! こ、これは、いったい……」 「し、静かに! 昭羽、しっかり見ておくのだ。一つとして見逃してはならんぞ!」 「は、はい……」  いつの間にか部屋に入って来ていた呂老師は、思わず声を上げた昭羽に、低く厳かな声で命じた。  その間も忠良さんの変化は続き、半時もたつ頃にはほとんどの傷が消えていた。  ◇ ◇ ◇  わたしは、天空花園を見下ろす小高い丘の上にいる。  あの人と二人、背中合わせで座っている。  あの人の背中は広くて温かだから、遠慮無く体を預けられる。    あの人が、涼やかな声で、わたしの好きな詩を詠んでいる。  方岳という詩人の『春思』という詩だ。  春風多可太忙生  長共花邊柳外行  與燕作泥蜂醸密  纔吹小雨又須晴  ―― この詩に詠まれた忙しく動き回る春風は、まるで深緑のようだね!  あの人がそう言って、楽しそうに笑った。  笑い声と一緒に、小刻みに背中が揺れる。  だめですよ、そんなに揺らしたら! わたし、一生懸命がまんしているのに――。  ―― グルギュルグル……ギュルウウウーンッ……。  ◇ ◇ ◇ 「深緑さん! 深緑さん!」 「目を覚ますよりも先に、腹の方が起きたようだ! 面白い()だのう!」  ん? ええっと、友德様と……、老師の声……?  あ、そうか……、わたしは、呂老師の家で、忠良さんに快癒水を飲ませて……。  わたしは、ガバッと起き上がった。 「す、すみません! こ、こんなときに居眠りなんかしてしまって! あ、あの、忠良さんは、どうなりましたでしょうか?」  長椅子に座っているわたしを見下ろしながら、二人は同時ににっこりと笑った。  えっ? 何だか、笑顔がそっくりな気がするのですが……。 「すっかりよくなりましたよ。今は、昭羽が作った薄い粥を、美味しそうに食べています。それに、薬水を口に含んだだけのわたしの体にも薬効がありましたよ。荷車を引いたり、ここまで走ってきたりして感じていた疲れが、どういうわけか消えてしまいました」 「深緑さん、ありがとうございました。忠良は、すっかりよくなりました。あなたこそ大丈夫ですかな? 忠良の枕元で、突然倒れたのでびっくりしました。どうやら寝てしまったようなので、わたしと友德とで、ここへ運びました」 「ご迷惑をかけました。薬水の効果を、きちんと見届けないといけなかったのに――」
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