魔城探索、危機一髪(2)

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魔城探索、危機一髪(2)

「動く鎧が来る……!」  大きくて立派な廊下の左右から二体、ガシャガシャと近づいてくる。  僕らがいるのは、細い渡り廊下のような通路。通路の背後から、さっき食堂に閉じ込めた「動く鎧」がドアを激しく揺らす音が聞こえてくる。 「音だ」  きっと音に反応しているんだ。  動く鎧は暗闇で動いている。目が良いのならさっき食堂に隠れていた僕らを簡単に見つけたはず。でも投げて割れた皿の音に反応して襲いかかった。 「ティリカ、隠れよう!」 「……っ!?」  どこへ、と左右を見回す。  戻ったら意味がない、前からは二体の「動く鎧」がくる。  すると通路脇に小さな目立たない扉があった。何かの倉庫か小部屋だろうか。逃げ込めないかと押してみたけれど、鍵がかかっていてビクともしない。 「ダメだ……!」  と、細い明かり取りの窓が通路に並んでいることに気がついた。  外は暗くて光は入ってこないけれど、星がいくつか瞬くのが見えた。 「窓だ、窓に隠れよう」 「んっ?」 「上って!」  僕はティリカを窓枠に上らせた。幅は肘の長さぐらいで、高さは2メルテ。奥行きは1メルテほど。細長くて狭いトンネルみたいな形の窓。  ティリカのお尻を押して上らせて、次は僕というところで、動く鎧二体の影が見えた。 「やばいっ!」  来た!  焦って上れない。足が滑って落ちそうになったところでティリカが引っ張ってくれた。 「んーっ……!」 「くっ……と」  なんとかよじ登り、窓枠にすっぽり収まる。完全に細長い窓のフタみたいになって、直立不動。  これで見つかったらアウト。逃げられない。  僕の背中で縮こまっているティリカがぎゅっと僕の背中を掴んでいる。  ガチョガョと金属の音を響かせて、動く鎧が進んできた。  じっとして動かず、息を殺す。  物々しい金属音が大きくなり、目の前を二体の鎧が通りすぎていった。 「…………っ……」  やっぱり動く鎧は音を聞いて反応し、動き回っているみたいだ。  閉じ込めた部屋の方に二体は進んでいき、足音が遠くなった。  そーっと顔を出してみると、遠くで音はするけれど通路に姿はない。 「……行った」  僕は通路に飛び降りて、次にティリカが降りてくるのを手伝った。ここで物音を立てたらダメだ。静かに、そっと抱き止める。 「……ん」 「よし、進もう」  僕らは通路を抜けて大きな廊下へ。  そしてついに謁見の間にたどり着いた。  真ん中を駆け抜けたい気持ちを押さえて、壁沿いを進む。  幸い、隠れる場所はいくつもあった。太い柱や、大きな空の壺。破れたタペストリーが床に落ち、食器棚みたいな調度品もホコリを被っている。  僕らはネズミみたいにそそくさと身を隠しながら渡り、謁見の大広間を進む。 「っと、あれは……」  祭壇の脇に二体の金色の鎧がみえた。  祭壇の後ろに十段ぐらいの階段。そして両開きの豪華な扉。あそこが魔法使いが普段過ごしている部屋だ。  鎧は動いていないけれど、物音を立てたら絶対動くやつだ。 「……はぁ、はぁ」 「ティリカ……?」  ティリカが疲れている。顔色も悪い。緊張と空腹でふらふらなんだ。  進むにしても、まずは黄金の動く鎧をなんとかしないと……そうだ! 「ティリカはここでまってて」  僕は身振りでそう言って、すこし戻って床に落ちていた破れたタペストリーのところまできた。 「たしか……あった!」  さっき床に吊り下げ用の紐が落ちていたのを見つけていた。静かに引っ張り出すと十メルテ以上はありそう。長いロープみたいな紐を手に入れた。  僕は近くの柱を経由して、調度品の家具へ結びつけた。中には古い食器や何やらが入っている。ロープの端をもって、ティリカのところに戻る。 「……?」 「これを……引っ張る……!」  んむっ!  頼むから切れないで。  力任せにロープを引くと、柱を回り込んだロープが調度品の家具を揺らした。ガタガタそして、ティリカも一緒にロープを引くとガシャァンと大きな音を立てて調度品が崩れ落ちた。 『――!?』  ガシャガシャッと二体の黄金の鎧が動きだし、剣を抜いた。そして音のした調度品の方に向かってゆく。  今だ! 「動ける?」 「んっ!」  ティリカの手を掴んで僕らは駆け出した。闇に紛れてヒタヒタと大広間を駆け抜け、祭壇の裏側へ。滑りこむように隠れる。  はぁっ……はあっ。  息を整えながら覗いてみると、一体の黄金の鎧は家具を剣で斬りつけ、もう一体はタペストリーを蹴飛ばそうとして転びそうになっていた。  なんだあれ? やっぱり音に反応するだけで賢くはない。本で読んだゴーレムみたいに。  よし、今のうちに魔法使いの部屋へ。  とそこでティリカが祭壇の横にある、台車を眺めていた。給仕さんが押して荷物を運ぶ、押し車。  その上には水差しのコップと銀の皿、そして、 「……果物」 「……ん」  間違いない。しなびているけれど、南国産の紫色のブドウだ。市場で売ってるのを見たことがある。食べたことはないけれど。  た、たべたい。  こんな時なのに、僕ったら何を……。  それにここにあるってことは魔法使いのものだ。恐ろしい呪いや毒がはいっているかも。罠かもしれない……って! 「んっ」  ティリカがブドウをむしりとって、口に放り込んだ。 「あっ、ちょっ!?」  僕は慌てた。毒とか、大丈夫なの!? 「……んー……ん!」  もしゃもしゃと食べて、ごくん。  ティリカは口許で微笑んで、親指を立てた。 「た、食べた……」  こうなったら、もう食べてやる。  ここまで来て怖いものなんてあるもんか。ブドウをつかんで何粒か、口に放り込む。すると甘くて果汁が口のなかで弾けた。  お……美味しい!  染み渡る。  二人で顔を見合わせて、あとは奪い合うようにブドウをむさぼって、食べた。  なんだかもう可笑しくて、ふたりで笑い転げそうになる。こんな場所で、悪い魔法使いの食べ物を盗み食いなんて。  考えるともう可笑しくて。  きっとティリカは魔法使いが食べているのを見て毒は無いって思ったんだろう。 「はぁはぁ……っと、行かなきゃ」 「んっ!」  お陰で元気が出た。  空になった銀の皿をつかんで、大きくふりかぶって祭壇裏から思いきり投げた。  銀の皿は円盤みたいに上手にとんで、黄金の鎧の頭に命中して大きな音を立てた。 「……!」  おーっと感心するティリカ。  周囲を見回す黄金の鎧。でももう一体が頭めがけて剣で襲いかって鎧の頭がすっ飛んだ。やっぱりバカみたいだ。 「ぷっ!」  笑いをこらえながら、僕らは祭壇裏の階段を駆け上がった。
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