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『足かせの鍵』の試練
僕とティリカは祭壇の後ろからダッシュして、一気に十数段の階段を駆けあがった。5メルテ四方の踊り場みたいなところに椅子が倒れていた。
王様が座っているような大きさで、玉座だったのだろう。その背後に両開きの扉がみえた。
「鍵はあの中にある?」
「……」
たぶん、という自信なさげなティリカの反応。
迷っていても仕方ない。鍵が掛かっていないことを祈りつつ、押してみるとあっさりと開いた。中は真っ暗で踏み込むことをためらう。
背後の謁見の間では残った一体の黄金の鎧が、闇雲に剣を振り回しガチャガチャと右往左往している。
「ティリカはここで待ってて」
僕だけが魔法使いの部屋に入る。
途端にボッ、ボボッ……と両側の壁ぎわの燭台に青紫色の不気味な炎が灯ってゆく。魔法の罠!? と驚いだけど魔法の明かり灯っただけらしい。
不気味な光が豪華な部屋の中を照らし出してゆく。
「鍵は……!」
冷たい空気が押し寄せてきた。
目を凝らす。中は15メル四方ぐらいの四角い部屋で天井は高く、立派な家具や豪華な調度品が並んでいる。きっと王様の部屋だったのだろう。
古く色あせた肖像画、大きな寝台。正面奥に黒塗りの机。その横に斧を持ったひときわ豪華な金色の鎧……。部屋の中央に応接テーブルがあって床に古いテーブルクロスが落ちて踏み荒らされていた。
「んっ……!」
ティリカが何かを指さした。
「あれか!」
暖炉の上に鍵がいくつか飾られていた。
小さな銀色の鍵、そして大きな黒い鍵……!
大きさからみて一番大きな黒い鍵が『あしかせの鍵』に思えた。
背後を気にしながらハラハラ見守っているティリカ。僕は意を決して部屋の中を進んで、一気に黒い鍵の前まで近づいた。
禍々しい雰囲気が足かせと同じ。表面に浮かんでいる文字や赤黒い光はアギューの足についている足輪を思わせた。
「これに違いない」
きっと『足かせの鍵』だ。
迷っている暇なんてない。
手をのばして黒い鍵を掴む。
大きくて重くて冷たい。
けど持った瞬間、ぐらりと眩暈がした。
「……っ!? なんだこれ……身体が……」
全身がだるくて動かなくなってくる。どんどん足下から泥沼に沈むみたいに。これってアギューの足かせの呪いと同じ……!?
とっさに鍵を手から落とした。
床で大きな音がする。
はあっ、はあっ……!
僕は冷や汗をかき、肩で息をしていた。
鍵にも呪いがかかっている。こんなものを持って帰らなきゃならない、どうすれば……。
「んーっ!」
気が付くと部屋の入口でティリカがピョンピョン跳ねていた。そして「う、し、ろ!」と指をさす。
後ろ?
『ギギ……』
「わっ!?」
しまった音か!
壁際にあった黄金の鎧が動き出し、斧を振り上げて立っていた。全身を覆う形のフルアーマー。それがそれが大きな斧で僕を狙っている。
「ちょっ……とわっ!」
とっさに落とした『足かせの鍵』をつかんで前転。ごろごろ転がって距離をとる。背後で机を斧が砕き、破片が散った。
僕は床に転がったとき、ずり落ちていたテーブルクロスに気が付いた。
これだ!
掴んで引き寄せ、咄嗟に『足かせの鍵』をぐるぐる巻きにして小脇にかかえ駆け出した。
「……ッ! これなら大丈夫だ!」
身体は少し重くなるけど動けないほどじゃない。
「んッ!」
真後ろに黄金の動く鎧が迫っていた。顔の部分を守るマスクの隙間からは赤い光が爛々と輝いている。
「ひえっ!?」
ビュゥン! しゃがんで避けた頭上を斧がかすめた。
危なく首を斬られるとこだった。
でも動きは遅い!
入り口まで走って、ティリカと合流する。
「逃げよう!」
「んーっ!?」
でも真後ろからガシャガシャと黄金の鎧が突っ込んできた。
斧を振り上げて、僕らを狙っている。
今度の扉は鍵がかけられない。
「ティリカ! あいは動きが遅い、いち、にの、さんで……」
僕は手を左右に分ける仕草をしてみせた。
ティリカは僕の意図を察して頷いた。
走る速度を緩めずに鎧は突き進んでくる。
「いち……にの!」
「んっ!」
僕らはタイミングを合わせて入り口で左右にパッと別れた。黄金の鎧は僕らを見失ったまま進み、勢い余って階段で足を滑らせた。
『――!』
階段を転がり落ち、ガラガラガッシャァアアンと激しく祭壇に激突。黄金の鎧のパーツがあちこちに散らばった。
「やった!」
「んーっ!」
僕らは階段を駆け下りて、ジタバタする黄金の鎧の背中をふんずけた。そして祭壇わきを走り謁見の間を駆け抜け一気に出口を目指す。
けれど最初に二体いたうちの一体の『黄金の鎧』が待ち構えていた。剣を振り上げて通せんぼ。
「ティリカは左、僕は右」
動く鎧は単純だ。同時に二人に対処できない。
走って鎧の目の前で左右に分かれると案の定、戸惑った動きで剣をふるタイミングが遅れた。
「とあっ!」
『――!?』
僕は駆け抜けながら床に落ちていたロープを掴んで、思い切りひっぱった。
罠のロープ。調度品に結んでいたものだ。黄金の鎧は足をとられて転倒、黄金の鎧は倒れてバラバラになった。
「んっ!」
ガン、ゴロゴロと階段を転がり落ちる兜をティリカが蹴飛ばした。
ナイスティリカ。
「このまま地下牢へ戻ろう!」
「ん!」
僕らは大広間を後にした。
「あはは! やった」
僕はティリカの手をつかんで走る。ティリカが手をぎゅっと握り返す。絶対に離さない。息が苦しいし、心臓がドキドキする。
でもついに『足かせの鍵』を手に入れた。
あとは地下へ戻るんだ!
けれど連絡通路まで来たときだった。
「んっ……ぐっ!?」
「ティリカ!?」
突然ティリカが足を止め、苦しみだした。壁に背中を押しつけ首の輪っかに手をかけて苦痛にあえぐ。
黒い影が夜空を横切った。
魔法使いが戻ってきたんだ!
「あ……ぐ」
「ど、どうすれば……」
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