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協力しよう!
カツ、コツ……と足音が近づいてくる。
地下牢の外、廊下の向こうにある階段を降りてくる気配だ。
『――邪悪な魔法使いめが、ワシの血を絞りにきたのじゃ』
「キミの血を魔法使いが?」
『――あぁ。魔力を補充し、より強力な魔法を使うためじゃというが……ハルトゥナ、お前は命乞いでもしてみることじゃ』
アギュラディアスは諦めたように目を眇めた。
話が本当ならもうすぐここに悪い魔法使いが来る。
廊下の向こうの階段を降りる歩みは遅く、地下牢に来るまでまだ時間がある。
「命乞いをすれば、助けてくれるような人?」
『――ハルトゥナ、残念じゃがそれは期待は出来ぬの」
「だよね」
こんな酷いことをする魔法使いが「マトモ」なわけがない。
『――ワシはお前を食わぬと決めた。しかし食われぬエサは処分されるやもしれぬ』
アギュラディアスが諦め気味にゆっくり息を吐き、背中の翼をワサワサと落ち着かない様子で動かした。
「処分って」
『――牛や羊、生きたもの、死んだもの。あらゆるエサを奴はここに投げ入れた。じゃがワシは誇り高き竜の一族ゆえ何一つ口にしなかった。それはこの城の奴隷の娘が片づけた……。そしてハルトゥナ、お前がエサとしてここに来たわけじゃ』
「なるほど」
でも我慢できなくて食べかけた、ってわけね。
ん? それに奴隷の娘って……。
僕以外にもここに誰かいるってこと?
魔法使いの奴隷ってことだろうけど……。
『――ヤツはワシが死んでは困るようじゃ』
「ちょっとまって……!」
考えろ、考えろ!
僅かな時間だけれど状況を整理して。
囚われの竜、アギュラディアスの「エサ」として僕を地下牢に放り込んだのは、食べて滋養をつけて欲しいからだ。
魔法使いにとって竜は大事で、飢え死には困るってことか。
アギュラディアスは空腹のあまり僕を食べかけたけどギリギリのところで踏みとどまってくれた。
僕の……人間の血を「舐めた」ことで知恵をとりもどし正気に戻った……って言っていた。
とにかく魔法使いは狂っている。
悪事をすると天罰が下るとか、王国の騎士に処罰されるとか、そんなことは微塵も恐れていない。アギュラディアスを捕えるほど頭が良くて、相当に強い魔法使いってことだよね……。
そんな相手に「助けて!」と泣き叫んでもきっと無駄だ。
僕は「エサ失格」として処分されてしまう。
だったら僕は「役に立つエサ」を演じればいい!
魔法使いにとって役に立つエサに。
足音が近づいてきた。
廊下に降りてきた。あと30秒もない。
よし!
「ねぇ、アギュラディアスさん」
『――ワシの名にさんづけは要らぬぞな、ハルトゥナ』
「じゃ……じゃぁアギュー!」
『――ハッハッハ、まぁよかろう。してワシに食われて死ぬほうがマシとでも思ったか?』
「ちがうよ! アギューはここを逃げ出したいよね!?」
僕の声に、アギュラディアスは一瞬、目を見開いた。
けれど、
『――ヌシの力など何になる。この足の鎖は切れぬ……。何度試しても無駄じゃった。魔法で壊れぬようになっておる。それに逃げ出そうにも血を抜かれ力も出ぬのじゃ』
ふにゃっと首を曲げるアギュラディアス。
「ふたりで時間を稼いで、作戦を練ろう。足の鎖を外す方法を僕が見つける! だからアギューも協力して」
『――じゃが……どうやって』
「魔法使いは、僕とアギューが『話せる』って事を知らない。だから、二人で作戦を練っているなんて思いもしないはず」
『――ぬ……ぅ?』
だから、
「僕を食べる『フリ』をして! 猫がネズミを弄ぶみたいに、さっきみたいにガブッてかじって! はやく!」
『――ハルトゥナ……ヌシは……』
足音はもう地下牢の前だ。
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