向き合う時

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「どうして? 何かあったの?」 綾香の涙を拭いてやりながら、思い切って告白する。 「会社の……その……上司なんだけど……」 「もう、じれったいな! 告白されたの? したの?」 こんなことまでせっかちで本当に困る。 「された」 「それで!?」 「それでって……断った」 「はっ!? なんで!」 前のめりで聞いてくる綾香に圧倒されて、私は部屋の隅まで追いやられてしまった。 「だって、上司としか見てなかったし」 「それってすぐに断ったの?」 「え?」 「告白されてすぐに返事をしたの?」 「それは……暫くしてからだけど」 「大事なことを聞くけど、お姉ちゃんはその上司をどう思ってるの?」 「……」 「好きなんでしょ?」 ズキンと胸が痛かった。自問自答しているときは、認めたくないというか、私が人を好きになるなんてと信じられない気持ちもあったし、何より人と関わって傷つくのが怖くて、違うと思うようにしてきた。 「だって……告白されたから好きになるの? ずっと上司としか見ていなかったのに?」 「お姉ちゃんさ、人を好きになるのにいちいち理由付けするの? 告白されたって好きにならない人だっているでしょう? 告白されて好きになることの何が悪いの? 恋愛なんて自分勝手でいいじゃない。その人を想うのは勝手なんだし、いちいち好きになる人に、「好きになってもいいですか?」って了解をもらってから好きになるの? 恋する心は、誰にも指図出来ないし、文句を言われる筋合いはないんだから」 綾香に言われてはっとした。いじめの原因は告白されたことだった。そのときの私は確かにその子に対して気持ちが全くなくて、すぐに断っている。部長が好きだということは分かっていたけれど、異性として意識していなかったのに、告白されたから好きになるなんて都合が良すぎると、自分の気持ちを抑えていた。 「部長は……部長が……好き……」 「お姉ちゃん……」 自分の気持ちが悪いことじゃないんだと分かったとき、妹を前に嗚咽するくらいに泣いた。 「お姉ちゃんのことを好きだと言ってくれたのは、部長さんなんだね。ずいぶん年上なんじゃないの? おじさんで嫌なんだけど」 綾香はなんでもはっきりと言う子だけど、部長がおじさんと呼ばれるのにはまだ早いと思う。ここは部長の名誉の為に訂正をしておかなくてはいけない。
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