向き合う時

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今年の誕生日は色々な意味で心に残る日になりそうで、綾香に打ち明けたことで心も軽くなった。 「どうしたらお姉ちゃんが整形をやめてくれるのか、ずっと方法を探してた。その方法が見るかる前に整形をしちゃたらどうしようって。今だから言うけど、お姉ちゃんは自分が醜く見えてしまう病気だったの。色々調べたけど、ぜったいにそうなの。だから私、焦っちゃって」 「うん、うん、そうだよね。ごめんね」 「今はちゃんと見えてる? 変な顔がみえてたりしない?」 「大丈夫よ、いつもと同じ顔だけど、変な風には見えていないから」 「良かった」 なんでもはっきりという綾香が、言えなかったこと。それが聞けたとき、はっきりと自分が過去に縛られていると認めた。 一気にじゃなくていいから、少しずつ自分を変えていきたい。綾香の力を借りて、女性としての喜び、楽しみを味わいたいなんて、前向きに考える。 父親も帰宅して家の中は賑やかになった。 「ごはんよ~おりてらっしゃい」 母親にごはんだと呼ばれ、二人で下に降りると、テーブルにはからあげ、グラタン、クラムチャウダー、リクエスト以外のお刺身まであって、豪華そのものの食卓が整っていた。中心にはケーキがあって、思いきり30という数字のローソクが刺さっていたのを見た時は、とうとうこの年になってしまったんだと、がっくりとしてしまった。 「30のローソクなんて刺さないでよ」 とうとう30才になってしまったかと、少しショックだったのに、あからさまに数字にして祝わなくてもいいじゃない。まったく母親ときたら辛辣で嫌になる。 「若い日はあっという間に過ぎるのよ」 「分かってるって……」 「ほらほら、綾香、みんなにワインを注いで」 少しむくれた私に、父親が場の空気を変える。父親は普通のサラリーマンだけど、昇進や出世に興味がなく、役職も部署の主任という立場で、それ以上の役職は拒否していたらしい。 母親も父親の出世より、健康で家族を第一に考えてほしいと言っていたようだ。 「家族との時間を潰してまで仕事をしたくない。お金なら違う方法で稼ぐから問題ない」 と言って、母親や私たちをとても大切にしてくれていた。 部長はあの若さで海外事業部の部長という立場になったけれど、男としてやっぱり業績を残すためには、昇進、出世を望んでいるのだろうか。 実力がある人がその能力を使わなくては勿体ないけれど、部長の様子を見ていると、朝も誰よりも早く出勤して仕事、昼も食べながら仕事、毎日の残業ではいつ自分の時間を作っているのだろう。 「はい、お姉ちゃん」 「ありがとう」 綾香がグラスにワインを注ぎ、誕生日を祝う言葉をもらう。 「智花、誕生日おめでとう」 「ありがとう」 「かんぱい!!」 家族4人でワイングラスを高くあげチン!と鳴らす。トライアングルの音のように、高く響き少しだけ耳を傾けた。この中にいると、何もなかった時に戻っているようで、気持ちも穏やかになる。
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