向き合う時

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美容院に着くと、一気に緊張した。綾香が一緒でも、自分と向き合うんだと決めても、慣れていないことをするのは緊張する。 「今日はどうしましょうか」 「えっと……」 何も言えない私に、隣に座っていた綾香が助け舟をだしてくれた。 「綺麗な姉がより引き立つ髪型にしてやってください。あ、長さはそのままで」 「ちょっと、綾香」 ズバズバ言うけれど、一言多いのも綾香の余計なところ。 「前髪は横に流す感じにして、全体的に重い感じがするので軽くしましょう。おでこがとてもいい形ですね。隠しておいたら勿体ないですよ」 「は、はい。おまかせします」 思いきり髪を掻き上げられて、顔全体が現れたとき、どうしようと思っていたけど、誉め言葉をもらっても大丈夫だった。 美容師さんがチョキチョキとカットしている間、いつもの私はずっと伏し目でいた。そもそも美容院に行かなくても済むように長くしていただけで、自分がしたい髪型なんてなかった。 置かれていた雑誌をめくりながら、今の流行りを知る。これから私もこんな風な洋服を買って、綾香と並んでも恥ずかしくない姉になるんだと、気持ちはウキウキしていて、綾香ともしゃべりながらカットしていたら、あっという間に時間は過ぎて、気が付いたらセットまで終わっていた。セットの仕方を見て、自分なりに家で練習しようと思っていたのに、何も習得できなかった。 「とてもお似合いですよ。カットした自分が言うのもなんですが」 「ありがとうございます」 横に流した前髪に、軽くカールした髪。初めて見る女性らしい髪型に、これが私なのかと、信じられなかった。 綾香と二人で綺麗になり、次はショッピングへと移動する。 「綾香、今日はお姉ちゃんが洋服を買ってあげる」 「え? ほんと!?」 「本当よ」 いやらしいけれど、お金は持っている。20代の若くて楽しい時間を全て貯金に回してきた私は、価値のあるお金の使い方をしてこなかった。ただたまっていく貯金通帳を眺めるだけで、今よりも若くて、体力があって、好奇心や気力も存分にあったときに、せっせとお金を貯めていた。
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