近づくこと、離れること

3/7
前へ
/131ページ
次へ
大いに盛り上がっている会場を抜け、静な場所に来た。 「夜の会社は怖いくらい静かね……」 中学の時に読んだ怪談話がふと頭をよぎる。窓際に立つと、自分の後ろに知らない誰かが立っているという場面。 「いないわよね」 ミステリーや怪談話は好きなくせに、怖がりな私。ここに来たのは不正解だったかも。 「考えちゃだめ、目の前には綺麗な夜景が広がっているんだから、それを見るのよ」 手にはおいしそうなお料理とお酒がある。一人でパーティーをしていると思えば、ここは怖い場所じゃなくなる。 「いただきます」 一口お酒を飲んで、夜景に目をやると、私の背後に人が映っていた。 「きゃあああああ」 叫んでみたけど、その声は響くどころか、かすれてしまい声として出ていなかった。本当の恐怖の時は、声がでないものらしい。 さらに私は腰を抜かしてしまって、身体の何処にも力が入らず、逃げることも出来なかった。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2189人が本棚に入れています
本棚に追加