近づくこと、離れること

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「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」 「迷惑じゃないよ、そんなことは気にしなくていいが、身体だけは大切にしないとダメだぞ」 「はい」 「今は? 大丈夫なのか?」 これから先、強引に何かしたりしなければ大丈夫です。と答えたかったけど、そんなことは言えなくて、ただ返事をした。 「はい」 「よかった。安心したよ……」 「……すみませんでした」 「……」 「ごめん、ちょっと外れるよ」 「はい」 部長が席をはずした。帰るなら今しかない。私は急いでエレベーターに乗った。 お料理のお皿もグラスも、あそこに放置してしまった。 こんなことをしたら、さらに顔を合わせずらくなるのに、どうにもならなかった。 悪いことは何もしていないのに、部長と二人になると、必ず私が逃げることになる。家族以外で長い時間を過ごすのは、私にとってとても大変なことなのだ。 何も言わずにいなくなるなんて、失礼だとも思うし、人の気持ちを考えていないと思うし、何より、後味が悪い。それでもこうするしかない私の気持ちを分かってほしい。 「はあ、はあ」 走る私とすれ違った人たちは、何事かと思っただろう。 ほっと出来たのは、電車に乗った時だった。 (お腹が空いた……) 食べ損ねてしまったお料理に後悔が残るけど、あのときの嫌な記憶も同時に蘇った。
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