ガラスの心

2/11
2172人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
「係長、白石さんは?」 「体調がすぐれないと言って、早退しました。顔が真っ青だったので心配なんですが」 「そうですか」 白石が帰ってからそんなに時間はたってない。今追いかければ追いつくはずだ。 「悪い、少し席を外す」 上司らしからぬ行動だったが、どうにもならなかった。 一気に下まで降りて周りを見渡したが、白石の姿はない。 「もう駅か……?」 一足遅かったかと思ったとき、社用のスマホが鳴った。 「なんだよ、こんな時に」 仕事だ、仕方がない。 「はい、大東です」 「医務室の植草です」 「ああ、お疲れ。どうした?」 「白石さんが来たの。今眠ってるわ」 「すぐ行く」 五代と植草には、彼女の話をしていた。サラリーマンである以上、業務指示には従わなければいけないが、転勤命令が彼女に出ている訳でもないのに、俺が付いてきなさいと言ったところで、付いてくる訳がない。 白石に対して恋愛感情を持っているのは俺だけで、白石は上司としか見ていない。そんな状況なのに、アメリカに行こうなんてハードルが高すぎる。 いい大人が恋愛相談をするなんて馬鹿らしいとか、アメリカという遠く離れた場所に行く俺に、そんな悠長なことは言っていられなかった。 白石の様子も聞きたくて、二人には話していた。 「白石は?」 「静に……眠っているわよ」 「そんなに体調が悪かったか?」 「彼女がいるから詳しい話はあとでね。心配していると思って連絡したの。とりあえず報告だけ」 「ああ、ありがとう」 カーテンで仕切られた中に白石はいる。俺に出来ることがあれば、何でもしてやる。 この出来事があって更に俺は、白石を支えてやりたくなった。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!